「プロはゴールではなくスタート」【『リーグ・オブ・レジェンド』アナリスト・iSeNN氏インタビュー】
彼ほど、現役プロプレイヤー達が引退後の模範とすべき人物はいないだろう。
日本初、プロジャングラーからアナリスト(注)へ転身。元AXIZ『リーグ・オブ・レジェンド』(LoL)部門プロのiSeNN氏。ジャングルでの周回を終え、第2のeスポーツ人生を歩み始めた彼に、今後の活動方針、現役選手に向けたメッセージを伺った。
まだまだ、前途多難なeスポーツ業界でのキャリアパス。彼はどこまで想定しているのだろうか。
――日本の『LoL』業界ではまだアナリストというポジションは一般的ではありません。他国では国を挙げてデータ分析していると聞きます。日本もアナライズチームを作る段階に入ったのでしょうか?
iSeNN氏:日本にはアナライズ担当をアサインする余裕のあるチームが少ないのが現状です。ジャングルに関しては、韓国から選手を雇った方がコスト削減になるのでしょう。アナライズデスクを設置しようにも、まず各レーン戦で負けちゃうとか、他の技術だけでも手が回っていない部分もあります。
――『LoL』の性質上、分析好きな方は多いですがiSeNNさんの分析は非常に細かいです。今回のアップデートによる中立クリープの経験値変更についても指摘されていました。
iSeNN氏:経験値効率が高いゴーレムに関する経験値の見直しですね。『LoL』はドラゴンのプライオリティが高いゲームです。
公式サイト(プレシーズン 2020のゲームプレイ:エレメントの目覚め)でも明記されていますが、ドラゴンを意識したゲーム展開において、ブルーサイドはレッドサイドに比べてゴーレムが食べやすいです。
ブルーサイドのルートとして、赤バフは1分30秒に沸き、1分40秒に狩り終わる。1分50秒にゴーレムまで移動して2分丁度に狩り終わる。
再出現までのインターバルは赤バフが5分、他のクリープは2分30秒です。よって、ゴーレムが次に沸くのは4分30秒、すぐに倒すと次は7分に沸くんです。
最初に食べた赤バフは6分40秒に沸いていることになるので、最も経験値効率の良いゴーレムを3回食べたあとに狩るのが丁度良いんです。
レッドサイドは2回目のゴーレムが沸くタイミングでドラゴン側に寄るのが大変になります。よって今回の経験値変更がされるんです。
――iSeNNさんに限らず、プロの方々は皆さんこのタイム感でプレイされているんでしょうか。
iSeNN氏:ジャングル担当じゃないと意識する必要はありませんので、他のレーナーはここまで細かくタイマーを管理していません。どのプロチームもジャングラーがその情報をチームメイトに伝えおおよその敵の位置を予測します。
僕は敵・味方と中立クリープのリスポンタイムを5秒刻みで記憶していて、それらを処理しながらプレイに反映させています。
リスポンタイムだけでなく他の情報処理しながらという、マルチタスク的な思考力が必要なので、向き不向きはあると思います。日本でプロのジャングラーが数名しかいないのは、これが理由ですね。
韓国は国を挙げて、ジャングル関連の技術をノウハウ化しているので強いんです。
iSeNN氏:また『LoL』は定石の多いゲームですが、その定石も含めて考えるのが好きです。
8年程前、各レーンにTopやBotのような名称や担当はありませんでした。今となっては当たり前ですが、その定石を考えている時期もあったので。
――その辺りのお話は、iSeNNさんのような古参プレイヤーだからわかる感覚ですね。
iSeNN氏:最近始めた方は知らないと思います。各ポジションも含めて、ルールとして決められていたと思っている人は多いです。
トップに1人、ミッドに1人、ボットに2人、ジャングルに1人、という現在の定石はSeason3辺りから固まり始めました。EU式と呼ばれる方式が基礎となっています。ライアットゲームズ側もユーザーのプレイスタイルからフィードバックを得て、追加要素を加えてきたんです。
――そのフィードバックを受けて、ジャングル専用のチャンピオンが意図的に作られたりもしたのでしょうか?
iSeNN氏:そうですね。最初は、ライアットゲームズ側もジャングルをどのような位置付けにするか深くは考えていなかったように思われます。
――お話を伺っていると、iSeNNさんの分析は極めて緻密ですね。
iSeNN氏:物事を細分化した上で最適化することは得意だと思います。もともとFPSをプレイしていたので、ひとつひとつの行動に意味を持たせるのは好きでした。撃ち合いに関してはヘッドショット等の要素を加味すると運ゲーなのですが、少しでも勝率を上げるために体の動かし方を研究していました。
どれくらい壁から体を出すべきなのかといった、キャラクターコントロールは研究し尽くしました。『LoL』のうまい人達は考えるのが好きな人達です。
――操作技術も重要ですが、論理的な思考が得意な人にこそ適性があるんですね。
iSeNN氏:ただ、天才肌の選手はいます。論理的なアプローチでスキルショットの命中率を80%から90%へ向上したところで「ひゅっ!」って避けられちゃうんです。こちらがどんなに論理形成しても、飛び越えてきてしまう選手はいました。それに衝撃を受けたことと25歳という年齢を加味して、引退を決意しましたね。
――身の振り方に関しても、論理的なんですね。プロになる前はどうだったのでしょうか。現状のeスポーツ選手という業種は、打算的になるほど踏み込みづらい業種にも思えます。
iSeNN氏: 高校は進学校だったのですが、大学に行っちゃうと遊んじゃうと思ったので、18歳の時に警察官になりました。22歳の時にRascal Jesterからお声が掛かってプロになりました。警察官だった当時はアマチュアチームに所属していて、周りはプロを目指していました。
他のメンバーは僕より少し若い世代だったのですが、まず僕がプロゲーマーへの道を示すことでメンバーを勇気づけたいと考えるようになりました。結果として僕はプロ入りすることができ、最終的には当時のメンバー他2名がプロになりました。
――周囲の方とのつながりの中でプロを志したということですね。これからプロを目指す方々はどのような意識を持つべきでしょうか?
iSeNN氏:プロ引退後のセカンドキャリアのことまで想定して活動するべきだと思います。
ただ、eスポーツの現場は最低限のプロ意識を身につけさせるのが精一杯、引退後の身の振り方まで考えられる段階ではありません。SNSでの発言やコミュニケーションに関する指導が最優先になっています。ゲームだけをしてきた方々には、コミュニケーション能力が一般的なレベルに達していない方も多いです。
僕は社会人を経験しており、引退後のこともある程度は想定していたのですが、プロ活動を通して引退後にも一緒に仕事をしたいと思える選手は多くありませんでした。AXIZは選手のブランディングも含めて、プロ意識を身につける教育やキャリア形成を考えて下さる稀有なチームでした。
――フィジカルスポーツに比べて、eスポーツ選手の選手寿命が短命である問題も浮き彫りになってきました。FPSなどの反射神経が必要なゲームでは特に短命です。
iSeNN氏:選手生命については身体的な理由だけではなく、金銭面も大きな理由です。プロでもマネタイズできていないゲームタイトルは多いです。
プロ引退後も経験を活かして働くとなると、自ずとeスポーツシーンでのイベントに関わることになります。現役選手の頃から、イベントの運営や企画など、表舞台ではない仕事についても興味を持てるかは重要だと思います。
――本日はありがとうございました。iSeNNさんの存在とメッセージは、これからのeスポーツ選手にとって励みになると思います。日本で稀有なアナリストとしての活動だけでなく、セカンドキャリアのモデルケースとしても注目されていくと信じています。
iSeNN氏:今後はアナリスト・解説のみに限らず、活動の幅を広げていきたいです。『LoL』の講師にも誘われていますが、他にも携わりたい案件が多く手が回っていません。自分がeスポーツとどう関わっていくべきなのか、しっかりとセルフブランディングを考えつつ活動していきます。
iSeNN Twitter
https://twitter.com/iSeNN_JG
日本初、プロジャングラーからアナリスト(注)へ転身。元AXIZ『リーグ・オブ・レジェンド』(LoL)部門プロのiSeNN氏。ジャングルでの周回を終え、第2のeスポーツ人生を歩み始めた彼に、今後の活動方針、現役選手に向けたメッセージを伺った。
まだまだ、前途多難なeスポーツ業界でのキャリアパス。彼はどこまで想定しているのだろうか。
孤高のアナリスト
――日本の『LoL』業界ではまだアナリストというポジションは一般的ではありません。他国では国を挙げてデータ分析していると聞きます。日本もアナライズチームを作る段階に入ったのでしょうか?
iSeNN氏:日本にはアナライズ担当をアサインする余裕のあるチームが少ないのが現状です。ジャングルに関しては、韓国から選手を雇った方がコスト削減になるのでしょう。アナライズデスクを設置しようにも、まず各レーン戦で負けちゃうとか、他の技術だけでも手が回っていない部分もあります。
――『LoL』の性質上、分析好きな方は多いですがiSeNNさんの分析は非常に細かいです。今回のアップデートによる中立クリープの経験値変更についても指摘されていました。
iSeNN氏:経験値効率が高いゴーレムに関する経験値の見直しですね。『LoL』はドラゴンのプライオリティが高いゲームです。
公式サイト(プレシーズン 2020のゲームプレイ:エレメントの目覚め)でも明記されていますが、ドラゴンを意識したゲーム展開において、ブルーサイドはレッドサイドに比べてゴーレムが食べやすいです。
ブルーサイドのルートとして、赤バフは1分30秒に沸き、1分40秒に狩り終わる。1分50秒にゴーレムまで移動して2分丁度に狩り終わる。
再出現までのインターバルは赤バフが5分、他のクリープは2分30秒です。よって、ゴーレムが次に沸くのは4分30秒、すぐに倒すと次は7分に沸くんです。
最初に食べた赤バフは6分40秒に沸いていることになるので、最も経験値効率の良いゴーレムを3回食べたあとに狩るのが丁度良いんです。
レッドサイドは2回目のゴーレムが沸くタイミングでドラゴン側に寄るのが大変になります。よって今回の経験値変更がされるんです。
――iSeNNさんに限らず、プロの方々は皆さんこのタイム感でプレイされているんでしょうか。
iSeNN氏:ジャングル担当じゃないと意識する必要はありませんので、他のレーナーはここまで細かくタイマーを管理していません。どのプロチームもジャングラーがその情報をチームメイトに伝えおおよその敵の位置を予測します。
僕は敵・味方と中立クリープのリスポンタイムを5秒刻みで記憶していて、それらを処理しながらプレイに反映させています。
リスポンタイムだけでなく他の情報処理しながらという、マルチタスク的な思考力が必要なので、向き不向きはあると思います。日本でプロのジャングラーが数名しかいないのは、これが理由ですね。
韓国は国を挙げて、ジャングル関連の技術をノウハウ化しているので強いんです。
定石すら疑う
iSeNN氏:また『LoL』は定石の多いゲームですが、その定石も含めて考えるのが好きです。
8年程前、各レーンにTopやBotのような名称や担当はありませんでした。今となっては当たり前ですが、その定石を考えている時期もあったので。
――その辺りのお話は、iSeNNさんのような古参プレイヤーだからわかる感覚ですね。
iSeNN氏:最近始めた方は知らないと思います。各ポジションも含めて、ルールとして決められていたと思っている人は多いです。
トップに1人、ミッドに1人、ボットに2人、ジャングルに1人、という現在の定石はSeason3辺りから固まり始めました。EU式と呼ばれる方式が基礎となっています。ライアットゲームズ側もユーザーのプレイスタイルからフィードバックを得て、追加要素を加えてきたんです。
――そのフィードバックを受けて、ジャングル専用のチャンピオンが意図的に作られたりもしたのでしょうか?
iSeNN氏:そうですね。最初は、ライアットゲームズ側もジャングルをどのような位置付けにするか深くは考えていなかったように思われます。
引退のキッカケとは
――お話を伺っていると、iSeNNさんの分析は極めて緻密ですね。
iSeNN氏:物事を細分化した上で最適化することは得意だと思います。もともとFPSをプレイしていたので、ひとつひとつの行動に意味を持たせるのは好きでした。撃ち合いに関してはヘッドショット等の要素を加味すると運ゲーなのですが、少しでも勝率を上げるために体の動かし方を研究していました。
どれくらい壁から体を出すべきなのかといった、キャラクターコントロールは研究し尽くしました。『LoL』のうまい人達は考えるのが好きな人達です。
――操作技術も重要ですが、論理的な思考が得意な人にこそ適性があるんですね。
iSeNN氏:ただ、天才肌の選手はいます。論理的なアプローチでスキルショットの命中率を80%から90%へ向上したところで「ひゅっ!」って避けられちゃうんです。こちらがどんなに論理形成しても、飛び越えてきてしまう選手はいました。それに衝撃を受けたことと25歳という年齢を加味して、引退を決意しましたね。
プロは目的ではなく手段
――身の振り方に関しても、論理的なんですね。プロになる前はどうだったのでしょうか。現状のeスポーツ選手という業種は、打算的になるほど踏み込みづらい業種にも思えます。
iSeNN氏: 高校は進学校だったのですが、大学に行っちゃうと遊んじゃうと思ったので、18歳の時に警察官になりました。22歳の時にRascal Jesterからお声が掛かってプロになりました。警察官だった当時はアマチュアチームに所属していて、周りはプロを目指していました。
他のメンバーは僕より少し若い世代だったのですが、まず僕がプロゲーマーへの道を示すことでメンバーを勇気づけたいと考えるようになりました。結果として僕はプロ入りすることができ、最終的には当時のメンバー他2名がプロになりました。
――周囲の方とのつながりの中でプロを志したということですね。これからプロを目指す方々はどのような意識を持つべきでしょうか?
iSeNN氏:プロ引退後のセカンドキャリアのことまで想定して活動するべきだと思います。
ただ、eスポーツの現場は最低限のプロ意識を身につけさせるのが精一杯、引退後の身の振り方まで考えられる段階ではありません。SNSでの発言やコミュニケーションに関する指導が最優先になっています。ゲームだけをしてきた方々には、コミュニケーション能力が一般的なレベルに達していない方も多いです。
僕は社会人を経験しており、引退後のこともある程度は想定していたのですが、プロ活動を通して引退後にも一緒に仕事をしたいと思える選手は多くありませんでした。AXIZは選手のブランディングも含めて、プロ意識を身につける教育やキャリア形成を考えて下さる稀有なチームでした。
――フィジカルスポーツに比べて、eスポーツ選手の選手寿命が短命である問題も浮き彫りになってきました。FPSなどの反射神経が必要なゲームでは特に短命です。
iSeNN氏:選手生命については身体的な理由だけではなく、金銭面も大きな理由です。プロでもマネタイズできていないゲームタイトルは多いです。
プロ引退後も経験を活かして働くとなると、自ずとeスポーツシーンでのイベントに関わることになります。現役選手の頃から、イベントの運営や企画など、表舞台ではない仕事についても興味を持てるかは重要だと思います。
――本日はありがとうございました。iSeNNさんの存在とメッセージは、これからのeスポーツ選手にとって励みになると思います。日本で稀有なアナリストとしての活動だけでなく、セカンドキャリアのモデルケースとしても注目されていくと信じています。
iSeNN氏:今後はアナリスト・解説のみに限らず、活動の幅を広げていきたいです。『LoL』の講師にも誘われていますが、他にも携わりたい案件が多く手が回っていません。自分がeスポーツとどう関わっていくべきなのか、しっかりとセルフブランディングを考えつつ活動していきます。
iSeNN Twitter
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