市区町村eスポーツ部が増えている理由とは? 先駆者5チームに聞いた“苦悩”と“やりがい”【邑楽町・太田市・朝霞市・荒川区・横須賀市eスポーツ部】

2022.7.20 宮下英之
最近、地方自治体レベルでeスポーツの取り組みが活発だ。商店街の活用、温泉地でのイベントなどなど各地で工夫されている。日本eスポーツ連合(JeSU)を中心とする組織も都道府県レベルに設置され、大会なども大都市一極集中ではなく、都心から少し離れた地域や、観光地などで行うイベントも見かけるようになった。

そんな中、SNSを中心に注目されているのが、自治体ごとに設置された「eスポーツ部」だ。まだ決して多くはないが、ガチで大会に参戦しながら、自治体のPRやeスポーツの普及にも尽力しているらしい。

今回、そんな自治体eスポーツ部のひとつ、群馬県太田市のeスポーツ部にアポをとったところ、交流のある5つの自治体(群馬県邑楽町、埼玉県朝霞市、東京都荒川区、神奈川県横須賀市)のeスポーツ部の代表者が集まるオフ会でお話をうかがえることになった。

まだまだゲーム=遊び・時間の無駄という風潮も拭い去れない中で、さぞやご苦労をされているのだろう……と思っていたのだが、思いのほか「eスポーツ」という言葉の追い風は強いとのこと。なぜ自治体の名前を冠したeスポーツ部を立ち上げたのか、自治体名を名乗る理由、部活としてのeスポーツに取り組むメリットとデメリットなどなど、普段なかなか聞くことのない自治体側のeスポーツのとらえ方はとても興味深い。

これからeスポーツに取り組みたいと考えているすべての自治体にとって、ためになる経験談が満載のインタビューとなった。

座談会参加メンバー


今回の参加者は以下の5名。世代的には20代半ばから30代後半までと、想像よりもやや高年齢だったが、これは役所内でリーダーシップを取れるようになってくる年代だからだろう。それぞれいつも遊んでいるゲームなども聞かせていただいた。


右から順にご紹介。
  • 太田市役所(群馬県) eスポーツ部 佐藤義恒さん。37歳。福祉こども部『PUBG MOBILE』『グランツーリスモSPORT』。https://twitter.com/och_esportsclub
  • 邑楽町役場(群馬県) eスポーツ部 水野潤一さん。33歳。都市建設課。『Apex Legends』ではダイヤ2。好きなレジェンドはクリプトで、センチネル+2倍スコープを愛用。https://twitter.com/Ora_esportsClub
  • 横須賀市役所(神奈川県) eスポーツ部 関山さん。33歳。観光課 サブカルチャー担当。『FIFA』シリーズをプレイ。ゲームよりもサッカーが好き。https://twitter.com/yokosukaesports
  • 荒川区役所(東京都) eスポーツ部 Doctorさん。最年少の26歳で、名前と顔は非公開。『Apex Legends』ではマスターで、クリプト×R-301カービンの組み合わせがお気に入り。https://twitter.com/doctor_arakawa
  • 朝霞市役所(埼玉県) eスポーツ部 髙橋さん。30歳。『機動戦士ガンダム バトルオペレーション』。好きなモビルスーツは「ズサ」。8月に発売予定の『地球防衛軍6』が楽しみ。https://twitter.com/ask_esport_club

群馬県邑楽町eスポーツ部「町おこし以前に、町の名前の読み方を知ってもらいたくて」


──本日はお話をうかがう機会をいただき、ありがとうございます。まずはそれぞれeスポーツ部を立ち上げたきっかけから聞かせてください。日本で最初に自治体としてeスポーツ部を立ち上げたのは、群馬県邑楽町さんでしたよね。

邑楽町・水野さん:はい。邑楽町でeスポーツクラブを立ち上げたのは、町のPRが大前提でした。

邑楽町は「住みやすい町」というのがメインのPRポイントなんですけど、そうするとまず町を知ってもらわなければならない。そもそもほとんど知られていない小さな町なので、「eスポーツ」がそのチャンスになると私は思ったんです。

私自身はもともとゲームはまったくやっていなかったんですが、知り合いのYouTuberと話をしていて、eスポーツというものが広がってきている、ここにフォーカスするのもアリなんじゃないか、ということで準備を進めて、翌年にクラブを立ち上げました。実際に活動する中で、eスポーツというものが人をつなげる素晴らしいものだと気づいて、力を注いでいきました。



ただ、始めるにあたっては前例がないとさすがに難しい。そこで一番力になったのが、群馬県でした。県庁がそのタイミングでeスポーツ推進課を作ってくれて、我々も「県にあるから」と言えたから始められたんです。

──どの自治体もそうかもしれませんが、当初、周囲の理解は得られたんでしょうか?

邑楽町・水野さん:最初はやっぱり反対の方が多かったです。というか、「なんのためにやるのかわからない」「PRになんかならない」と断言されましたね。

だけど、そういう言葉が自分の力になったというか、「絶対に結果を出してやる!」という気持ちになったところはあります。

──水野さんご自身はゲームは遊んでいなかったわけですよね。そこまでeスポーツが町おこしになると信じられた理由はなんだったんですか?

邑楽町・水野さん:まだどこもやっていなかったからです(笑)。「邑楽町」の知名度がないことは自分たちもわかっていて、どこよりも先に手をつけないと、大きい市とかが始めたら、名前が出ることは絶対にないですからね。

──実際に部活動を始めてから、成果が感じられた瞬間は?

邑楽町・水野さん:基本的にTwitterをPRの場にしているんですが、フォロワー数が一気に増えたタイミングがありました。大会で自分たちが活躍した時に、実況の方がフォーカスを当ててくださったり、スターダストプロモーションさんとかVTuberさんとのコラボとかは成果かなと思います。


──現在の主な活動は?

邑楽町・水野さん:これまではクラブとして大会に出ることがメインで、ようやく邑楽町役場にeスポーツクラブがあるということがeスポーツ界隈に浸透してきました。なので、今年から自分たちで実施するイベントを立ち上げています。

群馬県太田市eスポーツ部「野球部とサッカー部が良くて、eスポーツ部がダメという決まりがなかった」


──その次に立ち上げられたのはどちらですか?

太田市・佐藤さん:群馬県太田市です。最初は、僕がPS4で『モンスターハンター:ワールド』をひとりで遊んでいて、どうしても敵が倒せないので職場の後輩に手伝ってもらおうと声をかけたんです。すると、それまで知らなかったゲーム好きが見つかったんですよね。

しばらく一緒に遊んでいたんですが、『モンハン』が飽きてきた頃にスマホゲームの『PUBG MOBILE』がリリースされました。同じ課の仲間内でやっていって、途中から先輩とかも入れてくれってだんだん人が集まってきて。

その頃、『PUBG MOBILE』のある大会を見ていて「俺たちも出たいなぁ。でも市役所の名前じゃ出られないよなぁ……」と話していたら、ちょうど2020年の秋くらいに「企業対抗戦」が行われたんです。出場資格も満たせるようなので、恐る恐る人事課に行って「……市役所の名前を背負って出てもいいですか?」と聞いたら、ふたつ返事で「まあ、いいんじゃないの?」と言われまして(笑)。野球とかサッカーがよくて、eスポーツはダメという決まりが、逆になかったんですよね。


この時の大会には100社近くが出ていたんですけど、たまたま戦績が良くて全国7位になって注目されたんです。そしたら、年明けに群馬県庁から電話がかかってきて、「君たち、eスポーツやってるんだって? 隣町の邑楽町さんもやってるんだよ」ということで初めて顔合わせをして。その時に「eスポーツ部、作っちゃいなよ」と(笑)。

最初は人数も少なかったので、「太田市公認」というかたちで人事に承諾をもらって活動したのがスタートでした。

──ということは、きっかけは太田市のPRのためというわけではなかった?

太田市・佐藤さん:ただ大会に出たいというだけでした(笑)。でも、これをきっかけにさらに人が集まってきて、県からも声がかかって『ぷよぷよ』とか『グランツーリスモ』とか、ほぼすべての大会に出場していったんです。太田市にある障害者eスポーツの施設などとも知り合えたりして、本格的に市としてeスポーツをやっていこうという話になりました。

──実際に始められてから変化は感じますか? そもそもはただゲームを遊びたかっただけなのに、「eスポーツ」という言葉がついた途端に理解され始めたとか……。

太田市・佐藤さん:当時は横須賀市さん(後述)のニュースとかを見て、「自分も仕事でやってみたいなぁ」と思ってはいました。でも、市でやるとなると市民にメリットがなければ意味がない。

そこで、太田市はスバル(富士重工業)の工場がある「スバルの町」なんですが、市のメリットを考えた時に、我々がスバル車で大会に出たりスバル車オンリーの大会を開いたりすれば、地元企業や地域産業の振興にもなるんじゃないかということで、市長とお話ししました。


──ついに首長まで届いたわけですね(笑)。

太田市・佐藤さん:ちょうど2023年に「太田アリーナ」という、世界のeスポーツ大会とかでも見そうな中央に4画面がある施設を作る予定だったので、ここを使えるんじゃないですかとお伝えしたら、市長も「いいねぇ」と乗り気になってくれまして。施設自体はプロバスケチームのためのものなんですけどね。

2022年度になって、実際にスバル車を使ったイベントをやろうと声をかけてみたら、子どももお年寄りも「やりたいやりたい」と言われていて、この夏からはスバル車での体験会を始めます。ゆくゆくは、太田アリーナでの大きなイベントにつなげられたらと思っています。

埼玉県朝霞市eスポーツ部「課を超えた斜めの交流がしたくて。ゲーム好きは芋づる式に見つかった」


──続いては、埼玉県の朝霞市さんですね。

朝霞市・髙橋さん:うちは野球部やサッカー部があるんですが、所属している職員から「仕事では絡みがない人とスポーツを通して交流できる」という話を耳にしていたんです。だったら、僕の好きなゲームでもできないことはないだろう、というのがきっかけです。

要は、職場で斜めの交流がしたかったんですよね。やっぱりゲーマーって元々、みんなで集まってワイワイ遊ぶという性格でもない。だけど、ゲーム好きが部活したっていいじゃん、ということでeスポーツ部を立ち上げた感じです。


──メンバー集めの時、役所の中で誰がゲーム好きなのかはどうやってわかったんですか?

朝霞市・髙橋さん:まず、ゲームをやっていそうな人に声をかけて回りました。すると、「どこどこ課のなんとかさんも『Apex Legends』やってるらしいよ」とか、芋づる式にわかってくるんです。

一応、5人集まれば部として活動できるので、職員の互助会に申請して、2022年4月1日から、正式に朝霞市eスポーツ部として活動を始めました。

──実際に部活動をしていて、よかったことはなんですか?

朝霞市・髙橋さん:そうですね、役所って、他の課のいろいろな人とも仕事をしないといけないときに、知っている人がいるといないとでは全然違うんですよ。

一同:(うなづく)

朝霞市・髙橋さん:たとえば、部活動でメンバーを通して他の課のことを知っておくと、僕が担当していない仕事でも「その仕事だったらどこの課のなんとかさんが詳しいよ」とかパスができるだけで、仕事がやりやすくなります。

──市に対する貢献としてはどんなことを考えているんでしょうか?

朝霞市・髙橋さん:部としては、児童館とかで市内の中高生と一緒にeスポーツ大会をやりたいと動き始めています。役所の名前をつけるからには、市民にも還元しないといけない……ということは、部を作った後に私も思うようになりました(笑)。

また、災害相互援助協定を結んでいる山形県東根市の温泉組合がeスポーツの大会をやるということで、山形県eスポーツ連合とか東根市の方など、自治体を超えた交流もしたりしています。



東京都荒川区eスポーツ部「モチベを上げるために『荒川区』の名前で『企業対抗戦』に出たかった」


──その次は、東京23区の荒川区役所さんですね。

荒川区・Doctorさん:はい。部の設立は2022年4月で、まだ2カ月目です。去年の年末から動き始めて、職場としてeスポーツ部を立ち上げたいとは考えていました。

動機は個人的な理由というか……『Apex Legends』を遊んでいて、一緒にやっていた友達がだんだんやめていく中で、変化もないしモチベーションを維持するのも難しくなってきて。そこで、プレイヤーとして「荒川区」の名前を冠して大会に出てみたいと思ったのがきっかけです。

僕みたいに、普段はソロだけど誰かと一緒に遊びたいという人はきっと職場にもいる、僕が先頭に立って部を作ったらそういう人達が集まって、みんながプライベートでゲームを遊ぶ環境がもっと良くなるはず、と思ったんです。

──なるほど。ただ、誰かと遊びたいならネットで仲間も探せますよね。eスポーツ部にこだわった理由はなんだったんですか?

荒川区・Doctorさん:やはり「企業対抗戦」の存在が大きかったですね。部のメンバーと練習を重ねていく中で、このメンバーで勝ちたいという思いが強くなっていって、職場の人も応援してくれるようになりました。YouTubeでの配信も少しずつ始めているのですが、予選で戦った他の企業から応援してもらえたりもします。

Doctor@荒川区役所eスポーツ部のYouTubeチャンネル。地道な活動を続けている

今までは自分のためだけにゲームをしていたんですが、誰かと一緒に、誰かのためにゲームをするという感覚が生まれてきて。プレッシャーを感じるとともに、なんだか「青春している!」って感じもしています。

──まだ2カ月ですが、役所内での反応は変わりましたか?

荒川区・Doctorさん:まだ「eスポーツ」という言葉に馴染みがなくて、野球とかサッカーと比較して「これってスポーツなの?」と思っている人も多いです。でも、YouTubeでの配信を見てくれた先輩が「これはスポーツだね!」って言ってくれたりもしました。そういう感想を聞けると、eスポーツという大きな業界に少しは貢献できたのかなとも思えましたね。

──みなさんそうですが、誰かのために行動するという気持ちがあるところは、さすがは公務員ですね。実際はゲームやってるだけなんですけど(笑)。

一同:(笑)。

朝霞市・髙橋さん:ゲームって、いつの時代も悪者にされがちですからね。

荒川区・Doctorさん:僕の大好きなゲームで、ゲーム業界やeスポーツ業界に少しでも恩返しができるとしたら、それだけでうれしい、っていう気持ちはありますね。



神奈川県横須賀市eスポーツ部「市を上げてeスポーツを推進中」


──最後は横須賀市さんですね。今日の5つの自治体の中では最も人口が多く、eスポーツにも市として積極的に取り組んでいらっしゃいますよね。

横須賀市・関山さん:そうですね、横須賀市はeスポーツ部の立ち上げまでの順序が、みなさんとは逆なんですよ。

2019年12月に「横須賀eスポーツプロジェクト」が立ち上がって、市としてeスポーツに取り組み始めました。いろいろなサブカルチャーとコラボしたり、eスポーツを流行らせたいということで、民間企業のお力も借りながら市内の高校にゲーミングPCを無償で貸し出したり、eスポーツチームの誘致などもしています。

Yokosuka e-Sports Project(https://www.cocoyoko.net/e-sports

──市としてPCをレンタルするというのは先進的ですね。

横須賀市・関山さん:そのあと、新型コロナで市のイベントが全部できなくなってしまったんですけど、オンラインのeスポーツだけは普通にできたんです。1回目は2021年3月に『ロケットリーグ』で、第2回を2021年10月に『VALORANT』でやりました。

その年の12月には、「有吉ぃぃeeeee!」で横須賀市観光課として挑戦するという企画を紹介していただいて、ものすごい反響をいただき、役所の中でも話題になりました。


その第2回大会の時にTwitterを始めて、今日集まった皆さんを知りまして、それがきっかけでeスポーツ部設立を考えるようになりました。庁内の掲示板でメンバーを募集したら、20数名が反応してくれて、「企業対抗戦」に出たいという人もいれば、ゲームが好きというだけの人もいましたね。

──つまり、部活動よりも市の事業として、先にeスポーツに取り組んでいたわけですね。

横須賀市・関山さん:そうですね、eスポーツ部の部長は僕と同じ観光課の人間なんですが、「これからはeスポーツが来る!」ということを市長にゴリ押ししたこともあり、市長もeスポーツの取り組みを理解してくれています。


──役所の中で、eスポーツやゲームへの偏見などはなかったですか?

横須賀市・関山さん:eスポーツに対する悪いイメージを聞いたことはないですね。「若者のゲーム依存」とかの問題も言われていますが、eスポーツに取り組んでいる高校生たちは、ちゃんと自分たちで考えて活動していますよ。

むしろ、僕たちのような30代以上のゲーマーの方が、際限なく遊んじゃってます(笑)。

──学校内で取り組んでいるというのもいいのかもしれませんね。ゲームをやるだけじゃなく、仲間との交流なんかもありますし。

横須賀市・関山さん:さらに、2021年には空き家対策として、空き家をゲーミングハウスとしてリノベしまして、そこに『PUBG MOBILE』のプロeスポーツチーム「BC SWELL」が入ってくれました。チームの取締役にはサッカー元日本代表の大久保嘉人さんが参加してくれたりもしています。

──関山さん自身はゲーム経験はなかったんですか?

横須賀市・関山さん:正直、最初はeスポーツをまったく知らなくて、『FIFA』とか『ウイイレ』しか遊んだことがなかったんです。サッカーしかやってこなかったので。

──たしかに、見るからにサッカー好きって感じします(笑)。



横須賀市・関山さん:よく言われます(笑)。でも、こうして自治体としてのeスポーツの取り組みが増えれば、日本でのeスポーツのイメージも変わっていくと思います。自治体がやることで、もしかしたら若い人たちもやりやすくなるかもしれませんしね。

──ちなみに、他の自治体のeスポーツ部ってどれくらいあるんですか?

邑楽町・水野さん:福岡市さんですね。まだ「eスポーツ同好会」みたいです。


太田市・佐藤さん:あと、群馬県庁。

横須賀市:表に出ていないだけで、取り組み始めている自治体もまだまだあると思います。

──みなさんのことを知って「これからうちでもeスポーツ部を作りたい」と考えている自治体の方に、「こうすればうまくいく」というアドバイスはありますか?

邑楽町・水野さん:ネガティブな意見が多い中で一番ポイントだったのは、「町のためになる目標を設定すること」でした。ふるさと納税につなげるとか、結果を残すためにPRしていくのは大事かなと思います。部活設立を申請する担当課にも、話が通しやすくなりますよ。

人気タイトルはPC勢、Switch勢など多種多様


──eスポーツ部とひとくくりにしても、みんなが同じゲームを遊んでいるわけではないと思うんですが、どんなゲームが多いんですか?

横須賀市・関山さん:うちは『Apex』ですね。

朝霞市・髙橋さん:うちも同じで、意外と多いのは『スプラトゥーン』ですね。Switch勢とPS勢でゲームも違うかも。

荒川区・Doctorさん:『Apex』はPCでもPS4でもSwitchでもできますしね。

邑楽町・水野さん:逆に、もともとPCを持ってたのは12人いるうち1人だけでした。

横須賀市・関山さん:うちはPC、PS4、Switchが3等分ずつでした。

──「さて、横須賀市のPS4ユーザーは何人でしょう?」って算数の問題が作れそう(笑)。

太田市・佐藤さん:うちは意外とPCユーザーが多かったです。課長くらいの年齢の人でも「実は持ってるんだ」って判明したり。YouTuberとかVTuberを隠れてやっている人もいたりして、「お前、このキャラだったのかよ」とか(笑)。やっぱりコロナでみんなやることがなくなってPCを買った人は多かったようです。

邑楽町・水野さん:市としては配信とかは問題ないんですか?

太田市・佐藤さん:完全に個人としてやっているので大丈夫です。

──公務員だと広告収入とかも「副業」になっちゃうんですか?

邑楽町・水野さん:うちはeスポーツ大会の賞品とか賞金のことも考えて、全員が副業申請を済ませています。なにかあったときに面倒なので、了承が得られるように。

──なるほど、そういった公務員ならでの配慮も大切ですね。

eスポーツ部名義? 個人名義? 公務員ならではのSNSの難しさ


──ひとつ気になるのが、いくら部活動とはいえ、立場や名前、顔がさらされるリスクです。そのあたりはいかがですか? たとえば、SNSが情報発信のツールになっていますが、炎上の怖さもありますよね。

太田市・佐藤さん:eスポーツ部としてはTwitterだけやっているんですが、最初はやっぱり怖くて、3カ月くらい勉強してから始めました。邑楽町さんとか群馬県庁のツイートを全部見て、どうしたら炎上しないか、何が失言なのかとかは気をつけています。

荒川区・Doctorさん:できるだけ親近感は持ってほしいんですよね、自治体ってお堅いイメージがあるので。若い世代の公務員は当たり前のようにゲームもするし、YouTubeも見ているってことをアピールしたいですが、あまりやりすぎてもいけませんし。

──SNSアカウントは、部の公式として運用している場合もあれば、個人で運用している場合もあるみたいですね。

邑楽町・水野さん:町としての活動にすると、苦情が町役場に直接行ってしまうんです。だけど、完全に別にしておけば役場職員が独自にやっていることになるし、苦情が来ても私が受け止めれば自分の責任でできますから。


──それはそれで怖いですね……。

邑楽町・水野さん:でも、その方が活動の自由度は高まるんですよ。

朝霞市・髙橋さん:私たちの部も、市のイベントなどについてはSNSでは一切触れないようにしています。ちょっとでも市の情報を言ってしまうと、反応が怖くて。

荒川区・Doctorさん:うちも同様です。

──他に気をつけるべきことはありますか?

朝霞市・髙橋さん:たとえば、Twitterを投稿する時間帯。お昼休みに投稿したとしても「この人、就業時間中にSNSをやってる」と思われてしまうかもしれません。

荒川区・Doctorさん:それはありますね!

太田市・佐藤さん:うちもかなり意識しています。

──このご時世、やっぱり粗探ししている方もいますからね……。

横須賀市・関山さん:逆に、うちは業務時間中にも仕事としてやっている場合もあります。

──それはそれできつそう(笑)。

太田市・佐藤さん:うちはチームアカウント以外に、代表や副代表の別アカウントも作っています。

荒川区・Doctorさん:うちは「荒川区役所eスポーツ部部長」の個人アカウントとして運用していて、eスポーツ部のアカウントは存在しません。

邑楽町・水野さん:それはなんでですか?

荒川区・Doctorさん:部員に役割分担が生まれてしまうと、やらないといけない「仕事」になりますよね。いつか誰かが抜けるときに「次は誰がやる?」という話になってしまう。僕としては、職場の人同士で気軽にゲームで交流できる場にしたかったので、プライベートに影響があるような役割分担は作りたくなかったんです。

──そこは自治体によってやり方が違うんですね。お仕事としてされるところ、あくまで部活動としてやるところ。でも、どちらもeスポーツで自治体の知名度を上げたいという目標は一緒と。

荒川区・Doctorさん:たとえば、「eスポーツで荒川区の魅力を見せたい」と考えたとしても、それはeスポーツ部がやることではなく、荒川区役所としてすべきことだと思うんですよね。

eスポーツ部があることで、これまで馴染みのなかった人にもeスポーツが浸透していきます。それによって、eスポーツ業界自体の価値が上がって、自然と区役所も意識して「うちでも取り組もうか」ということになっていけばいいなぁと。

──面白いですね。荒川区さんと、邑楽町さんや横須賀市さんのスタンスはまるっきり逆なんだ。

朝霞市・髙橋さん:僕なんかは、「朝霞市にeスポーツ部ってのがあるらしい」というだけでなんか市役所に行きやすいと思ってくれる人がひとりでもいれば十分かなと思っています。

──確かに、eスポーツ部がある自治体って、先進的な取り組みをしている、新しいものに理解がある自治体、というイメージが生まれますね。「役所って堅そうだけど、自由に部活動とかできるんだ」って思えることはプラスに感じます。

太田市・佐藤さん:もしかしたらこれから「企業対抗戦」で強いeスポーツ部がある自治体に就職したいという人も出てくるかもしれませんよね(笑)。

横須賀市・関山さん:横須賀市ではすでに、eスポーツ部がある高校をあえて受験する人もいるみたいです。オープンキャンパスとかで聞かれることが多いそうですよ。

邑楽町・水野さん:野球が強い高校を選ぶとか、そういう他の部活と同じ感覚なんでしょうね。

企業対抗戦2022ではエントリー数が過去最多の130社となった

有志だからこそ難しい、eスポーツ部の役割分担


──ここまでポジティブな話が多かったですが、逆にeスポーツ部を立ち上げてから困ったことはありますか? 乗り越えられないこととか……。

太田市・佐藤さん:いろいろあるんですけど、言えないことも多いなぁ(笑)。

横須賀市・関山さん:うちは、eスポーツの可能性が広すぎて、業務がパンクしそうです。僕一人でショートとセカンドとサードをすべて捌いてるような感じですね(笑)。そのせいで、僕自身はeスポーツ部の活動にほとんど参加できていないんですよ。

──横須賀市さんはそれこそ、業務としてeスポーツに取り組んでおられるのなら、役割分担がしやすいんじゃないですか?

横須賀市・関山さん:役所の業務って異動したら終わりなんです。でも、eスポーツ部の活動は異動しても続けられる。うちは部活動の方が始まったばかりなんですが、むしろ部活動の方が盛り上がってくれたらいいなぁと思っています。そこで交流ができれば、部署異動があってもeスポーツを理解している人が増えますから。


──eスポーツ部の活動として続けられる方が、仕事ではないけれど継続性はあると。

朝霞市・髙橋さん:部活動の方にも課題はありますよ。立ち上げから関わっている我々はいいんですけど、後から入ってくれた人たちは少しスタンスが違うんです。大会とかに1回出てみると面白さがわかるんだけど、そこまでは求めていない……という人もいます。部活動をする上での日程調整とか雑務とか、面倒なこともありますから。

邑楽町・水野さん:邑楽町では、運営と選手を完全に分けるようにしました。それまでは私が兼任していて、選手もやりながら運営もやっていてしんどかったんですけど、選手がそろってきたので、私は代表として運営を担当し、選手はゲームを頑張る、という感じです。

──先駆者ということもあって、邑楽町さんは一歩先を行ってますね。戦う姿勢からして違う(笑)。

朝霞市・髙橋さん:うちも新年度になって、戦えるメンバーが増えました。どうせ朝霞市の名前が出せるんだったら、ゲームが下手な僕じゃなく、ちょっとでも上手な人に活躍してもらいたい。試合に出たい人はそれだけでよくて、この座談会みたいなPR活動には興味がなくてもいいと思っています。

──どんなコミュニティでも、初期メンバーと後からのメンバーでは思いも違ったりしますし、それぞれ悩みが違うんですね。……そう言えばこの話が始まってから、太田市さんはずっと熟考されてますけども(笑)。

太田市・佐藤さん:僕も部活動が盛り上がるのはうれしいんです。でも一番の問題は、家庭との兼ね合いで……。

──また少し違う悩みが出てきましたね(笑)。

太田市・佐藤さん:自宅で嫁と子どもを隣に置いて、オンライン大会に出たり部活動の資料を作ったりしていると、「何やってるの、パパは」と総スカンをくらうんですよ。

邑楽町・水野さん:家庭と仕事だけだったところに「部活」が増えてしまったわけか。

太田市・佐藤さん:ありがたいことに、太田市eスポーツ部はだいぶ知名度も上がって、実はApex部門だけでも毎週3回くらい大会に出場しているんです。とはいえ、選手たちのプライベートもありますし、負担になりすぎても良くないし。


朝霞市・髙橋さん:朝霞市ほどの新しいチームでも、主催者から「大会に出ませんか?」とお誘いいただけるくらいなので、先頭を走る邑楽町さん、太田市さんは実力も高いし大変ですよね。

太田市・佐藤さん:こないだの大会なんて、邑楽町さんは「チーム3」まで出てましたもんね(笑)。勢いを止めたくはないけど限界はあります。

──裏を返せば、それだけいまeスポーツの勢いが感じられるということでもありますね。

太田市・佐藤さん:それはありますね。今ものすごく波は来ています。だから本音では、業務的な部分は市に渡してしまいたいんです。

ただ、現状はeスポーツに関する業務とか問い合わせがあると、市の担当課からeスポーツ部、つまり私宛てに派遣依頼が来て、お手伝いをしたりもしているんです。もう仕事になっちゃってます(笑)。

──5つの自治体だけでも、悩みの内容は全然違うんですね。そういうことがわかるだけでも、オフ会の意義はありますね。

朝霞市・髙橋さん:こうやって同じ境遇の人と話ができるとすごく刺激を受けます。他県の人と知り合うことなんて、この仕事をしていたらまずないですから。

邑楽町・水野さん:おそらく「おうらまち」も一生読んでもらえなかったと思います(笑)。

横須賀市・関山さん:困ったことと言えばもうひとつ、都道府県レベルでeスポーツをどこの課が引き受けるのかで、困惑されているところが多いみたいです。

朝霞市・髙橋さん:たしかに、野球なら都道府県に野球連盟とかがあって任せられますけど、eスポーツは群馬県庁以外、まだ独自の課がないですからね。

──地域ごとに日本eスポーツ連合の都道府県支部とかもあったりしますよね?

朝霞市・髙橋さん:
地域によって活動も力の入れ具合も違うみたいで、結局は役所で対応することが多いみたいです。

埼玉県は、イベントなどの観光や集客目的なら「観光課」、高齢者とか障害を持っている方が関わるとしたら「福祉課」、VRスポーツなどは「スポーツ課」とかですけど、eスポーツはどこが担当するのかがわかりにくい。

荒川区・Doctorさん:それだけ「eスポーツ」というコンテンツがポテンシャルを持っているということなんですけどね。観光資源にもなれば、若者も高齢者も関われますし、どこの部署も関わらないといけませんし。

朝霞市・髙橋さん:オンラインであれば、国際交流もできますしね。

太田市・佐藤さん:その意味では、うちは部活動のおかげでちょうどいい具合に各部署に部員がいるので、高齢者、観光、教育、運動と、それぞれの課で少しずつ業務を分担してみよう、という感じになっています。

邑楽町・水野さん:基本的に市町村って、新しい事業が来ることを拒む傾向はあると思うんです。慢性的なマンパワー不足ですし、やったことのない仕事へのネガティブな印象は、どんな業界でもありますよね。

なので、eスポーツ課を置くというよりは、自分たちの日常業務の中にeスポーツの業務を細分化して取り込んでいく、という太田市さんのイメージの方がよさそうな気はします。

──eスポーツを業務ではなくレクリエーションとして、課を超えて楽しんでいることのメリットが、これから生きてくるかもしれませんね。

ーーー

内情をうかがってみて、お堅いイメージのあった地方自治体で、eスポーツの部活動が意外にも(前例がないという消極的な理由もあるものの)理解を得られていることに驚かされた。

そして、たとえ業務時間外の課外活動とはいえ、ゲームとeスポーツが好きな人たちが、自治体eスポーツ部の先駆者として業界を引っ張っていくという気概を持っていることは、いちeスポーツファンとしても安心できる。

自治体は市民の税金を預かって業務を行うのが使命だ。その中には、自治体の価値や魅力を伝える広報活動も含まれる。そのことをどの自治体でも意識し、eスポーツ業界と自治体の発展に寄与したいと考えているところは、とてもいい傾向だと思う。

もし全国で、業務としてeスポーツに取り組む予定の自治体、単にゲーマーとして楽しくeスポーツを遊びたいという人がいたら、ぜひ勇気を出して一歩を踏み出してみてはいかがだろうか? 先駆者である5つの自治体の実体験には、きっとどの自治体でもeスポーツ部を実現するためのヒントを得られるだろう。

ちなみに、オフ会ではインタビューの後、5人による『VALORANT』のカスタムマッチが行われ、見事“自治体eスポーツ合同チーム”が勝利していた。自治体のPRには実力も伴ってこそ。日々の練習にも余念がなかったということもお伝えして、今回の座談会を終わりたいと思う。興味を持ったら、ぜひ各自治体のeスポーツ部アカウントをのぞいてみてほしい。



【取材協力】eスポーツカフェ e-ps

2019年12月にオープンした、埼玉県内初の本格的なeスポーツ施設。常時20台のゲーミングPCを設置し、120インチのスクリーンでパブリックビューイングなども可能。2022年7月1日のサイトリニューアルとともに、eスポーツチーム「e-PS.ALL.Gaming」を設立し、eスポーツカフェとしてだけでなく、競技に配信にとさらに活動の幅を広げている。

営業時間:
平日 15:00〜24:00
土・祝前日 13:00〜25:00
日・祝 13:00〜24:00
定休日:月曜日
利用料金(カッコ内は学割):
・PC利用料金
1時間プラン 660円(550円)
3時間プラン 1650円(1430円)
5時間プラン 2200円(1980円)
10時間プラン 3300円(2970円)
・フリースペース・ボードゲーム利用料金
30分 200円
60分 400円
90分 600円
120分 800円
e-PS ハイブリッド学習利用料金
1時間(初回) 1200円
1時間(2回目以降) 880円

所在地:埼玉県熊谷市銀座2-33 熊谷クレセントビル3F
https://e-ps.net/
Twitter:https://twitter.com/ePS_eSportsCafe



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