『フォートナイト』で変わった息子との関係、ゲームへの理解【お笑い芸人・小籔千豊インタビュー】
近年、YouTubeなどの動画配信でタレントやお笑い芸人が活躍する姿が増えた。吉本興業がUUUMと提携してゲーム配信に力を入れるなど、ゲームと配信は切っても切れない関係になりつつある。
そんなゲーム配信を行っている芸人の多くが、ゲームのうまいプレイやアクシデントを笑いのきっかけとして活用しているのに対して、ひたすらストイックに、シンプルにゲームを楽しむ姿だけで12万人ものフォロワーを獲得しているのが、吉本新喜劇でもおなじみの小籔千豊(こやぶかずとよ)さんだ。
2020年1月に「フォートナイト下手くそおじさん」という名前でYouTubeに颯爽と現れたものの、当初は身分も明かさず、ただ『フォートナイト』を遊ぶ姿を見せるのみだった。しかし、息子のじょうたろう君との親子プレイが徐々に人気を集め、著名なストリーマーやプロゲーマーとのコラボなども実現していく。
ゲームの中でも配信の中でも、芸能人ならではの大げさなサービス精神はほとんど見られない。まるで48歳のおっさんがただゲームを楽しむ中で仲間を増やし、コミュニティに認められていくドキュメンタリーのようでもあった。
その輪は徐々に大きくなり、親子でのデュオ(2人1組)大会を2021年に開催し大成功。2年目の今年はさらに多くのスポンサーを集め、実力者が大勢集まる「GALLERIA presents 第2回親子大会 featuring Fortnite」という大きな大会にまで成長した。
そんな親子大会の直前に、小籔さんにインタビューを敢行。『フォートナイト』との出会いによって変わっていった親子の関係、小籔さんやその周囲の方々のゲームやeスポーツへの見方の変化には、ゲームに本気で取り組むことが理解されない多くのゲーマーやeスポーツ関係者を応援する気持ちが溢れている。
──小籔さんの個人YouTube配信から実現した「親子大会 featuring Fortnite」も今年で2回目となりました。すでに1月に予選大会も行われましたが、今大会の参加者の雰囲気はいかがですか?
小籔:去年よりかすごいレベルが上がっていると思うんですよね。
たくさんの人に出てもらいたいと思って、今年は予選の日を3日間に増やしたんです。決勝に出られる人の枠はゲーム上決まっている(最大50組100名)ので、去年は1~5位まで出られたんですけど、今年は1~3位と、予選の中でもより上位の方だけが決勝に上がってます。
──小籔さんとじょうたろう君も参加されますが、自信のほどはいかがですか?
小籔:息子はこの大会に出ている方々と遜色ないんですけど、僕が遜色しまくりなので、なんとか足引っ張らないように頑張りたいです。足ひっぱりは確定してるんですけどね(笑)。
去年もたいがいレベルは高かったんですけど、僕たち親子はベベ(ビリ)の可能性もありますんで、なんとか一矢報いたいと思ってます。
──普段『フォートナイト』はどれくらい練習されてるんですか?
小籔:1年間に2000時間くらい、2年なので4000時間以上はやってますね。
──となると、1日平均5時間以上! そこまでやっていると、「フォートナイト下手くそおじさん」の称号も「フォートナイトちょっとうまいおじさん」とかに変われそうですね。
小籔:たまに配信とかでも、「2年前に比べたら全然上手になってるやん」とか、「久々に生配信見に来たけど、めっちゃうまなってるやん」って言ってくださる方はいらっしゃるんですけど、今の僕というよりも、始めた時が死ぬほど下手くそだったので、どんだけうまくなろうがこの名前でいいかなと思ってます。今大会の予選にも、アジアのランキング1桁とか2桁の方もいますし、誰かから見たら僕なんて下手くそですから。
──そんな小籔さんは息子さんからの誘いで『フォートナイト』を始められたとのことですが、始める前と後で、息子さんとの関係は変わりましたか?
小籔:前はほんとにフツーの父親というか、世の中とはこうやぞとか、そういうことはしてはいけない、こういうものを食べた方がいいとかを、僕が上、息子が下で叱ったり注意したりという感じでした。
でも、ゲームを始めたら向こうの方がうまいので、息子が師匠、息子が親。「いや、そんなんせんほうがいい」とか「パパのあかんところはこういうとこや」とか、息子からダメ出しがめっちゃ来るようになって、「ああ、そうなんや」とか思いますね。
あとは、普段の会話の中で、
息子:「シーズン変わってポンプなくなったけど、パパどう思う?」
小籔:「いやー、ポンプあった方がええなぁ」
息子:「ほな、前のシーズンの方が良かった?」
小籔:「でも新しいシーズンも楽しくなるやろうなぁ」
息子:「まあなぁ」
という感じの、同じクラスの友達みたいな会話もしますね。
それまでは対等に話すこともなかったんです。息子が興味あるものは僕は興味ないし、僕が興味あることは息子は興味ない状態やったんで。
──そういう親子の会話が『フォートナイト』の話というのが新鮮です。親子で野球やサッカーやゴルフをやる話ならよく聞きますけど。
小籔:そうですよね、例えばお父さんが野球が好きで息子もやってるという父子鷹なんてのは、旧来からあると思うんですけど。そこは『フォートナイト』がスポーツめいたゲームなので、イチロー親子みたいな感じになってるのかなと思いますね。
こういう「親子大会」とかに出ているおうちは、お子さんに協力的だったりもします。去年参加されたある親子は、お子さんのために引っ越したそうです。回線が強い/弱いでも実力が変わってきますし。
そのお父さんが言ってたのは、「息子が野球をやってていいグローブを買ってあげるのと、いいパソコンや環境を買い与えるのは一緒や」と。それはゲームを競技として見ているから、ですよね。
──まさに、単なるゲームから競技=eスポーツとして浸透してきたってことですね。そのeスポーツの世界について小籔さん自身はどう思われますか? プロゲーマーがいたり、賞金付きの大会があったりと盛り上がってはいますけど……。
小籔:僕んとこは、嫁はんがゲームを長くやることについては基本反対するベタな親ですね。でも、ある日嫁はんがテレビ見てて「eスポーツって賞金取ったりしてて、プロとかスポンサーとかあんのやろ? ママ友に聞いたら、『あんたんとこの子ども、学校でも1番か2番くらいに『フォートナイト』上手らしいで』とか言っててん。なんかサッカーとかはやれって言うけど、ゲームやからあかんというのも違うんかなぁ。これから先、競技とかになるかもわからんし、その可能性を潰すのはちゃうんかなと思えてきた」と。
そして、「海外に行ったり日本代表になるなんてひと握りの人なのに、サッカーならやっても構へんって言う。でもゲームは良くないって、わたしちょっとせこいかなぁ」と言うてたんです。
うちの息子、幼稚園の時からゲームの世界に行きたい、プログラマーになりたいとずっと言ってて、パソコン教室のチラシを持ってきて「これ通わせて」と言って以来、真面目に何年も通ってるんですよね。宿題とか勉強とかやるべきことちゃんとやったら、パソコンとかゲームとか好きなことやらせたらええんちゃう? って思ってます。
だから、この先eスポーツの世界がどんなふうになるかはわからないですけど、うちは“広がってほしい気味”の家庭ではありますね。
──小籔さん自身もYouTuberとして人気ですが、芸能人も続々ゲーム配信を始めていますよね。配信という新しい世界にはどんな魅力を感じますか?
小籔:僕はYouTubeの世界自体には興味がなかったんです。他にも、バンド活動とか新喜劇とかテレビ番組とかいろいろあるので、もう一個追加するのはちょっとなぁと。
じゃあ、なんでYouTubeをやってるかというと、新喜劇の台本とか書かなあかん、ドラムの練習せなあかん、体調整えてバラエティ番組に万全の状態で出なあかんという中で、なんで金にもならへん『フォートナイト』を明け方4時までやってんの? っていう、自分の中で“やりたい”という気持ちと、“お父さんとして座長としてやってええんか”という部分で葛藤があったんですよね。
そんな時に、BSスカパー!の「BAZOOKA !!!」って番組のスタッフの「ビッグタイガータケ」って人が「YouTubeやりませんか?」って言ってきたんです。番組でバンドの企画(ジェニーハイ)をやろうと言い出した発案者だったり、高校生RAP選手権を発案したふたりのうちの一人でムーブメントを起こした人なんですけど、あの人が言い出したことって割と火ついてることが多いから、それやったらやってみよかな、って感じで。
でも、「トークとか政治とかどうですか」って言ってきたんですけど、「『フォートナイト』やったらやります」と。YouTubeをやりたいというより、『フォートナイト』やってるときの罪悪感を消したかったんですね。仕事という建前があればやってもいいじゃないですか。
──なるほど(笑)。
小籔:あと、子どもが小4くらいの時からYouTubeをやりたいって相談を受けてたんですけど、自分もようわからん、でも子どもにも経験なのでやらしたい。それで、子どもにYouTubeの仕組みをわかった上で教えたかったんです。
──そこから、親子大会の開催に至ったきっかけはあったんですか?
小籔:YouTubeの先輩や『フォートナイト』の先輩には、「こんなおっさん芸人が土足で入ってきて、俺らが作ったゲームの世界やのになんやねん」と思ってるやろうから、「あいつがフォートナイトの世界に来て良かったな」と先輩たちに思ってもらうためにはどうしたらええんやろなと思ってたんです。
そんな中で、一緒に遊んでる方に「なんでハマったんですか?」って聞くと「息子にハメられて」「いや、うちもそうなんですよ」っていうことが多かった。で、「子どもはうまいけど親は下手ですよねぇ」っていう話から、それやったら親子大会とかやりましょか」ってのが始まりです。
なので、YouTubeで一発当ててやろうとか、そういう気持ちはまったくなかったです。
──でも、小籔さんの「親子大会」をきっかけに、親子で『フォートナイト』を始めて関係が深まったという声もたくさん聞こえてきます。大人と子どもで一緒に遊ぶ時の親の立場へのアドバイスなどはありますか?
小籔:なんかね、お子さんと共通の趣味があるご家庭には、僕は勧める必要はないと思うんですよ。
ただ、僕ら子どもの頃にネットもYouTubeも『フォートナイト』もなかったですけど、いまの子どもたちは子どもの頃からYouTubeやネットがある。はっきり言って、僕らは大人やからわかってると見せかけてて、それらに触れた時間で言ったら子どもと変わらないんですよ。僕らもネットを始めて数年、子どもらも数年ですからね。
そんな世界で、子どもがネットの向こうの人とボイチャでしゃべってることがわからんかったら、子どもたちだけの世界になってしまうんですよね。
でも、僕は『フォートナイト』を息子と一緒にやってて、パーティー内のボイチャ(ボイスチャット)とかで「そんな言い方あかんよ」とか言える。陰で隠れて課金してても、一緒に遊んでる親ならわかります。
これからこの子らは、僕らが想像している以上の、メタバースうんぬんを超えたすごいスピードで進化しているネットに対応していく世代だと思うんです。それを僕らがほったらかしにしているより、ボイチャで一緒にしゃべってゲーム内で寄り添ってあげる方が、小学生とかにはいいんかなと思ってます。
──子ども中心のゲームの世界の中で、親が子どもの考えていることを聞ける機会なんてそうそうないですからね。
小籔:あとは、子どもが僕の言うことを聞くようになりました。
たとえば、「ゲームに課金したい、スキンとか友達より少ない」とか言われたりして、理由もなく「あかん」と嫁はんも言ってました。でもゲーム内のことがわかったら、「いや、嫁はん、こいつの言ってることは合うてる。よその子より持ってるスキンは少ない。この子はむちゃむちゃ言うてるわけじゃない」とか弁護してやると、子どもも親が自分の味方やって感じがしますよね。今では嫁はんも理解してくれてますね。
──最後に、『フォートナイト』をやっててよかった、と思えるのってどんな時ですか?
小籔:息子と一緒にゲームをやることで、息子がいい大人になるかどうか、息子にとって教育的にいいかはまったくわかりません。
ただ、この後息子と疎遠になるのか勘当するのか出ていかれるのかわからないですけど、僕が死ぬときに一瞬でも親と子というベタな立場じゃないことで話したことがあるということは、いい思い出なのかなと思いますね。
最近ではゲーム好きの芸人はたくさんいるし、仕事としてゲームを遊ばざるを得ない芸人もいるかもしれない。しかし、もともとあまりゲームを遊ばなかった小籔さんのような人が、50近い“おっさん”になってから、心から楽しんでゲームを遊ぶというケースはなかなか珍しい。
だからこそ、今回の第2回親子大会の中でも、『フォートナイト』を楽しむ子どもたちの理解者でありながらも、ゲームだけを遊んでいてはいけない、親への感謝も忘れてはいけないという、社会の先輩という立場からの戒めも忘れなかった。それが説教臭く感じられないのは、フォートナイトが下手くそなおじさんが、一生懸命練習している姿を配信してきたからだ。
しかし、親子大会終了後にこのインタビュー記事を編集していた4月20日、フォートナイト下手くそおじさんのアカウントに「『フォートナイト』から離れる」という動画が突然公開された。その理由は、目への過度な負担だという。
たしかに、プロゲーマーの中にも同様の理由で競技シーンを離れるケースはよく聞かれる。これは素人でもプロでも関係ない。なんてこった、せっかく取材したのに……
という動画を見ると、どうやら“『フォートナイト』を映し出すモニターからもっと離れる”ということらしい。着々とYouTuberとしての配信テクニックも身につけているところが、おじさんのいちファンとしても頼もしい。
もし、子どもが夢中になって遊んでいるゲームが理解できなくて不安を感じている親がいたら、ぜひ小籔さんの配信を見てみてほしい。そして、自分が夢中になっている『フォートナイト』を親がまったく理解してくれないというお子さんがいたら、一緒に『第2回親子大会』の決勝動画を見てみてほしい。
eスポーツとか、ゲームとか、大人とか、子どもとか、正直どうでもいい。ただ純粋に楽しいゲームを親子で一緒に遊ぶだけの小籔親子の姿が、eスポーツが社会に根付いた令和の時代のゲームとの向き合い方を考えるきっかけになるはずだ。
GALLERIA presents 第2回親子大会 featuring Fortnite
https://www.youtube.com/watch?v=jroxei27S5U
そんなゲーム配信を行っている芸人の多くが、ゲームのうまいプレイやアクシデントを笑いのきっかけとして活用しているのに対して、ひたすらストイックに、シンプルにゲームを楽しむ姿だけで12万人ものフォロワーを獲得しているのが、吉本新喜劇でもおなじみの小籔千豊(こやぶかずとよ)さんだ。
2020年1月に「フォートナイト下手くそおじさん」という名前でYouTubeに颯爽と現れたものの、当初は身分も明かさず、ただ『フォートナイト』を遊ぶ姿を見せるのみだった。しかし、息子のじょうたろう君との親子プレイが徐々に人気を集め、著名なストリーマーやプロゲーマーとのコラボなども実現していく。
ゲームの中でも配信の中でも、芸能人ならではの大げさなサービス精神はほとんど見られない。まるで48歳のおっさんがただゲームを楽しむ中で仲間を増やし、コミュニティに認められていくドキュメンタリーのようでもあった。
その輪は徐々に大きくなり、親子でのデュオ(2人1組)大会を2021年に開催し大成功。2年目の今年はさらに多くのスポンサーを集め、実力者が大勢集まる「GALLERIA presents 第2回親子大会 featuring Fortnite」という大きな大会にまで成長した。
そんな親子大会の直前に、小籔さんにインタビューを敢行。『フォートナイト』との出会いによって変わっていった親子の関係、小籔さんやその周囲の方々のゲームやeスポーツへの見方の変化には、ゲームに本気で取り組むことが理解されない多くのゲーマーやeスポーツ関係者を応援する気持ちが溢れている。
小籔千豊(こやぶかずとよ)
1973年9月11日大阪市生まれ。NSC大阪校12期生(1993年)。2001年に吉本新喜劇に入団し、2005年に史上最年少で座長に。現在もテレビ、ラジオ、舞台、さらに音楽と多彩な活動を見せている。ゲームでは、2020年1月に自身のYouTubeチャンネル「フォートナイト下手くそおじさん」を開設。『フォートナイト』の日々のプレイ風景を配信し、12万人以上のフォロワーを獲得している。毎週水曜日・土曜日18時に公開される千原ジュニア・小籔千豊・フットボールアワーの仲良し芸人3組によるお笑いチャンネル「ざっくりYouTube」も好評。Twitter、Twitch、TikTokなどでも活動している。
1973年9月11日大阪市生まれ。NSC大阪校12期生(1993年)。2001年に吉本新喜劇に入団し、2005年に史上最年少で座長に。現在もテレビ、ラジオ、舞台、さらに音楽と多彩な活動を見せている。ゲームでは、2020年1月に自身のYouTubeチャンネル「フォートナイト下手くそおじさん」を開設。『フォートナイト』の日々のプレイ風景を配信し、12万人以上のフォロワーを獲得している。毎週水曜日・土曜日18時に公開される千原ジュニア・小籔千豊・フットボールアワーの仲良し芸人3組によるお笑いチャンネル「ざっくりYouTube」も好評。Twitter、Twitch、TikTokなどでも活動している。
『フォートナイト』で築いた息子との新しい関係
──小籔さんの個人YouTube配信から実現した「親子大会 featuring Fortnite」も今年で2回目となりました。すでに1月に予選大会も行われましたが、今大会の参加者の雰囲気はいかがですか?
小籔:去年よりかすごいレベルが上がっていると思うんですよね。
たくさんの人に出てもらいたいと思って、今年は予選の日を3日間に増やしたんです。決勝に出られる人の枠はゲーム上決まっている(最大50組100名)ので、去年は1~5位まで出られたんですけど、今年は1~3位と、予選の中でもより上位の方だけが決勝に上がってます。
──小籔さんとじょうたろう君も参加されますが、自信のほどはいかがですか?
小籔:息子はこの大会に出ている方々と遜色ないんですけど、僕が遜色しまくりなので、なんとか足引っ張らないように頑張りたいです。足ひっぱりは確定してるんですけどね(笑)。
去年もたいがいレベルは高かったんですけど、僕たち親子はベベ(ビリ)の可能性もありますんで、なんとか一矢報いたいと思ってます。
──普段『フォートナイト』はどれくらい練習されてるんですか?
小籔:1年間に2000時間くらい、2年なので4000時間以上はやってますね。
──となると、1日平均5時間以上! そこまでやっていると、「フォートナイト下手くそおじさん」の称号も「フォートナイトちょっとうまいおじさん」とかに変われそうですね。
小籔:たまに配信とかでも、「2年前に比べたら全然上手になってるやん」とか、「久々に生配信見に来たけど、めっちゃうまなってるやん」って言ってくださる方はいらっしゃるんですけど、今の僕というよりも、始めた時が死ぬほど下手くそだったので、どんだけうまくなろうがこの名前でいいかなと思ってます。今大会の予選にも、アジアのランキング1桁とか2桁の方もいますし、誰かから見たら僕なんて下手くそですから。
『フォートナイト』はもはや、少年野球や少年サッカーと同じ
──そんな小籔さんは息子さんからの誘いで『フォートナイト』を始められたとのことですが、始める前と後で、息子さんとの関係は変わりましたか?
小籔:前はほんとにフツーの父親というか、世の中とはこうやぞとか、そういうことはしてはいけない、こういうものを食べた方がいいとかを、僕が上、息子が下で叱ったり注意したりという感じでした。
でも、ゲームを始めたら向こうの方がうまいので、息子が師匠、息子が親。「いや、そんなんせんほうがいい」とか「パパのあかんところはこういうとこや」とか、息子からダメ出しがめっちゃ来るようになって、「ああ、そうなんや」とか思いますね。
あとは、普段の会話の中で、
息子:「シーズン変わってポンプなくなったけど、パパどう思う?」
小籔:「いやー、ポンプあった方がええなぁ」
息子:「ほな、前のシーズンの方が良かった?」
小籔:「でも新しいシーズンも楽しくなるやろうなぁ」
息子:「まあなぁ」
という感じの、同じクラスの友達みたいな会話もしますね。
それまでは対等に話すこともなかったんです。息子が興味あるものは僕は興味ないし、僕が興味あることは息子は興味ない状態やったんで。
──そういう親子の会話が『フォートナイト』の話というのが新鮮です。親子で野球やサッカーやゴルフをやる話ならよく聞きますけど。
小籔:そうですよね、例えばお父さんが野球が好きで息子もやってるという父子鷹なんてのは、旧来からあると思うんですけど。そこは『フォートナイト』がスポーツめいたゲームなので、イチロー親子みたいな感じになってるのかなと思いますね。
こういう「親子大会」とかに出ているおうちは、お子さんに協力的だったりもします。去年参加されたある親子は、お子さんのために引っ越したそうです。回線が強い/弱いでも実力が変わってきますし。
そのお父さんが言ってたのは、「息子が野球をやってていいグローブを買ってあげるのと、いいパソコンや環境を買い与えるのは一緒や」と。それはゲームを競技として見ているから、ですよね。
──まさに、単なるゲームから競技=eスポーツとして浸透してきたってことですね。そのeスポーツの世界について小籔さん自身はどう思われますか? プロゲーマーがいたり、賞金付きの大会があったりと盛り上がってはいますけど……。
小籔:僕んとこは、嫁はんがゲームを長くやることについては基本反対するベタな親ですね。でも、ある日嫁はんがテレビ見てて「eスポーツって賞金取ったりしてて、プロとかスポンサーとかあんのやろ? ママ友に聞いたら、『あんたんとこの子ども、学校でも1番か2番くらいに『フォートナイト』上手らしいで』とか言っててん。なんかサッカーとかはやれって言うけど、ゲームやからあかんというのも違うんかなぁ。これから先、競技とかになるかもわからんし、その可能性を潰すのはちゃうんかなと思えてきた」と。
そして、「海外に行ったり日本代表になるなんてひと握りの人なのに、サッカーならやっても構へんって言う。でもゲームは良くないって、わたしちょっとせこいかなぁ」と言うてたんです。
うちの息子、幼稚園の時からゲームの世界に行きたい、プログラマーになりたいとずっと言ってて、パソコン教室のチラシを持ってきて「これ通わせて」と言って以来、真面目に何年も通ってるんですよね。宿題とか勉強とかやるべきことちゃんとやったら、パソコンとかゲームとか好きなことやらせたらええんちゃう? って思ってます。
だから、この先eスポーツの世界がどんなふうになるかはわからないですけど、うちは“広がってほしい気味”の家庭ではありますね。
ゲーム配信は『フォートナイト』を遊ぶための言い訳
──小籔さん自身もYouTuberとして人気ですが、芸能人も続々ゲーム配信を始めていますよね。配信という新しい世界にはどんな魅力を感じますか?
小籔:僕はYouTubeの世界自体には興味がなかったんです。他にも、バンド活動とか新喜劇とかテレビ番組とかいろいろあるので、もう一個追加するのはちょっとなぁと。
じゃあ、なんでYouTubeをやってるかというと、新喜劇の台本とか書かなあかん、ドラムの練習せなあかん、体調整えてバラエティ番組に万全の状態で出なあかんという中で、なんで金にもならへん『フォートナイト』を明け方4時までやってんの? っていう、自分の中で“やりたい”という気持ちと、“お父さんとして座長としてやってええんか”という部分で葛藤があったんですよね。
そんな時に、BSスカパー!の「BAZOOKA !!!」って番組のスタッフの「ビッグタイガータケ」って人が「YouTubeやりませんか?」って言ってきたんです。番組でバンドの企画(ジェニーハイ)をやろうと言い出した発案者だったり、高校生RAP選手権を発案したふたりのうちの一人でムーブメントを起こした人なんですけど、あの人が言い出したことって割と火ついてることが多いから、それやったらやってみよかな、って感じで。
でも、「トークとか政治とかどうですか」って言ってきたんですけど、「『フォートナイト』やったらやります」と。YouTubeをやりたいというより、『フォートナイト』やってるときの罪悪感を消したかったんですね。仕事という建前があればやってもいいじゃないですか。
──なるほど(笑)。
小籔:あと、子どもが小4くらいの時からYouTubeをやりたいって相談を受けてたんですけど、自分もようわからん、でも子どもにも経験なのでやらしたい。それで、子どもにYouTubeの仕組みをわかった上で教えたかったんです。
オンラインゲームを子どもだけの世界にしないために
──そこから、親子大会の開催に至ったきっかけはあったんですか?
小籔:YouTubeの先輩や『フォートナイト』の先輩には、「こんなおっさん芸人が土足で入ってきて、俺らが作ったゲームの世界やのになんやねん」と思ってるやろうから、「あいつがフォートナイトの世界に来て良かったな」と先輩たちに思ってもらうためにはどうしたらええんやろなと思ってたんです。
そんな中で、一緒に遊んでる方に「なんでハマったんですか?」って聞くと「息子にハメられて」「いや、うちもそうなんですよ」っていうことが多かった。で、「子どもはうまいけど親は下手ですよねぇ」っていう話から、それやったら親子大会とかやりましょか」ってのが始まりです。
なので、YouTubeで一発当ててやろうとか、そういう気持ちはまったくなかったです。
──でも、小籔さんの「親子大会」をきっかけに、親子で『フォートナイト』を始めて関係が深まったという声もたくさん聞こえてきます。大人と子どもで一緒に遊ぶ時の親の立場へのアドバイスなどはありますか?
小籔:なんかね、お子さんと共通の趣味があるご家庭には、僕は勧める必要はないと思うんですよ。
ただ、僕ら子どもの頃にネットもYouTubeも『フォートナイト』もなかったですけど、いまの子どもたちは子どもの頃からYouTubeやネットがある。はっきり言って、僕らは大人やからわかってると見せかけてて、それらに触れた時間で言ったら子どもと変わらないんですよ。僕らもネットを始めて数年、子どもらも数年ですからね。
そんな世界で、子どもがネットの向こうの人とボイチャでしゃべってることがわからんかったら、子どもたちだけの世界になってしまうんですよね。
でも、僕は『フォートナイト』を息子と一緒にやってて、パーティー内のボイチャ(ボイスチャット)とかで「そんな言い方あかんよ」とか言える。陰で隠れて課金してても、一緒に遊んでる親ならわかります。
これからこの子らは、僕らが想像している以上の、メタバースうんぬんを超えたすごいスピードで進化しているネットに対応していく世代だと思うんです。それを僕らがほったらかしにしているより、ボイチャで一緒にしゃべってゲーム内で寄り添ってあげる方が、小学生とかにはいいんかなと思ってます。
──子ども中心のゲームの世界の中で、親が子どもの考えていることを聞ける機会なんてそうそうないですからね。
小籔:あとは、子どもが僕の言うことを聞くようになりました。
たとえば、「ゲームに課金したい、スキンとか友達より少ない」とか言われたりして、理由もなく「あかん」と嫁はんも言ってました。でもゲーム内のことがわかったら、「いや、嫁はん、こいつの言ってることは合うてる。よその子より持ってるスキンは少ない。この子はむちゃむちゃ言うてるわけじゃない」とか弁護してやると、子どもも親が自分の味方やって感じがしますよね。今では嫁はんも理解してくれてますね。
──最後に、『フォートナイト』をやっててよかった、と思えるのってどんな時ですか?
小籔:息子と一緒にゲームをやることで、息子がいい大人になるかどうか、息子にとって教育的にいいかはまったくわかりません。
ただ、この後息子と疎遠になるのか勘当するのか出ていかれるのかわからないですけど、僕が死ぬときに一瞬でも親と子というベタな立場じゃないことで話したことがあるということは、いい思い出なのかなと思いますね。
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最近ではゲーム好きの芸人はたくさんいるし、仕事としてゲームを遊ばざるを得ない芸人もいるかもしれない。しかし、もともとあまりゲームを遊ばなかった小籔さんのような人が、50近い“おっさん”になってから、心から楽しんでゲームを遊ぶというケースはなかなか珍しい。
だからこそ、今回の第2回親子大会の中でも、『フォートナイト』を楽しむ子どもたちの理解者でありながらも、ゲームだけを遊んでいてはいけない、親への感謝も忘れてはいけないという、社会の先輩という立場からの戒めも忘れなかった。それが説教臭く感じられないのは、フォートナイトが下手くそなおじさんが、一生懸命練習している姿を配信してきたからだ。
小籔、『フォートナイト』やめるってよ……?
しかし、親子大会終了後にこのインタビュー記事を編集していた4月20日、フォートナイト下手くそおじさんのアカウントに「『フォートナイト』から離れる」という動画が突然公開された。その理由は、目への過度な負担だという。
たしかに、プロゲーマーの中にも同様の理由で競技シーンを離れるケースはよく聞かれる。これは素人でもプロでも関係ない。なんてこった、せっかく取材したのに……
という動画を見ると、どうやら“『フォートナイト』を映し出すモニターからもっと離れる”ということらしい。着々とYouTuberとしての配信テクニックも身につけているところが、おじさんのいちファンとしても頼もしい。
もし、子どもが夢中になって遊んでいるゲームが理解できなくて不安を感じている親がいたら、ぜひ小籔さんの配信を見てみてほしい。そして、自分が夢中になっている『フォートナイト』を親がまったく理解してくれないというお子さんがいたら、一緒に『第2回親子大会』の決勝動画を見てみてほしい。
eスポーツとか、ゲームとか、大人とか、子どもとか、正直どうでもいい。ただ純粋に楽しいゲームを親子で一緒に遊ぶだけの小籔親子の姿が、eスポーツが社会に根付いた令和の時代のゲームとの向き合い方を考えるきっかけになるはずだ。
GALLERIA presents 第2回親子大会 featuring Fortnite
https://www.youtube.com/watch?v=jroxei27S5U
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