プロeスポーツチームとして、真正面から競技に向き合うことが第一【「エヴァ:e」代表 北浦諭氏インタビュー】
- コラボではなくチームそのものを立ち上げたかった
- 陸ゲーマーながらもeスポーツ業界へ突入
- コミュニティの存在を実感。失敗から掴んだ大きな成功体験
- 人材ありきで立ち上げたよりすぐりの競技部門
- eスポーツ競技シーンに真摯に向き合う
- 得意分野はそれぞれ違う。だからこそ「エヴァ:e」は光る
- 実績を通してチームとブランドの知名度向上に繋げたい
日本の国民的アニメ『エヴァンゲリオン』(以下、作品名は『 』と表記)とコラボしたeスポーツチーム「エヴァ:e」が2020年に発足した。
アニメとeスポーツという日本初のコラボでも話題となったが、発足当初は『レインボーシックスシージ』(R6S)で、現在では『VALORANT』などの部門で活躍する実力派チームとしても知られている。アニメとしての知名度の高さはチームのブランディングには大きなメリットとなる反面、戦績が問われるeスポーツの世界では、逆に足枷になることもあるかもしれない。おそらくアニメファン、チームファンともに一番聞きたいのは、eスポーツでコラボすることの意義や成果だろう。
今回はそんな「エヴァ:e」の代表である北浦諭氏に、eスポーツ×アニメの先駆者として夢のコラボをどんなふうに考えているのか、そして今後、どんなことにチャレンジしていきたいのか、インタビューを実施した。
——まずは、「エヴァ:e」の発足にいたった経緯から教えてください。
北浦:「エヴァ:e」につきましては、私が代表を務めるNGMとは別で「ラナ エンタテインメント」という会社も関わっています。この2社は明確な役割分担がありまして、ラナ エンタテインメントは『エヴァンゲリオン』のeスポーツブランドライセンスの取り扱い、NGMは私がチームオーナーを名乗って「エヴァ:e」の全般的な運営をしています。
NGMは2019年に立ち上げた会社で、「エヴァ:e」以外にもいろいろなeスポーツ事業を手がけています。プロジェクト発足にいたった経緯は、やはりeスポーツ市場の盛り上がりが大きかったと思います。その過程でご縁のあったラナ エンタテインメント(エヴァンゲリオンレーシング運営会社)と提携し、「eスポーツ業界の中で『エヴァンゲリオン』関連のブランドを立ち上げよう。さまざまなeスポーツ会社と協力して展開を試みよう」というお話が出たんです。
その後、『エヴァンゲリオン』全体の著作権を管理している会社さんとも話し合いを重ね、2020年の4月に「EVANGELION e:PROJECT」を立ち上げる運びとなりました。チーム自体は当初4部門、2022年6月現在は『VALORANT』・『Apex Legends』(Apex)・『ストリートファイターV』(ストV)・『eFootball™』・「ストリーマー」の計5部門が活動しています。
我々はeスポーツチームとして競技大会に挑むのと同時に、ブランドアンバサダーという立ち位置も担っています。『エヴァンゲリオン』の世界観を基軸に発売されるeスポーツ商品や取り組みを宣伝し、競技大会やeスポーツ業界において『エヴァンゲリオン』の魅力を伝える。ひいては『エヴァンゲリオン』ファンの方々およびeスポーツファンの方々に興味を持っていただき、双方の業界をより盛り上げていきたい所存です。
——北浦さん自身は以前からゲームやeスポーツに興味はありましたか?
北浦:正直なところ、最近は時間の関係もあってほとんどゲームはしていません。とは言えゲームに興味がないのではなく、若い頃はRPGやシミュレーションゲームを一日中遊んでいたこともありました。なので普段は陸サーファー(見た目はサーファーなのにサーフィンをしない人)にならい、“陸ゲーマー”を自称しています(笑)。
そんなわけで、eスポーツはゲームそのものと言うよりも、どちらかと言えばビジネス的な観点から興味をそそられましたね。私はNGMとは別のイベント会社の代表も務めているのですが、その関係でeスポーツイベントの開催に立ち会ったことがあるんです。ちょうどその頃は国内でもeスポーツ元年と呼ばれて盛り上がり始めていた時期でもあり、「イベント企画のノウハウがeスポーツ業界にも生かせるのでは?」と積極的に意識するようになりました。
そこからは独学でeスポーツ業界のマーケットや競技シーンの動向を調べつつ、本格的な参入を決意してNGMを立ち上げることとなりました。ビジネスありきと聞くと邪な考えに捉えられてしまうかもしれませんが、元々の本業であったイベント屋の血も大いに騒ぎましたね。
——「イベント会社のノウハウを生かしたい」という熱意をうかがいましたが、実際にeスポーツ業界へ参入した後の感触はどうでしたか?
北浦:お恥ずかしい話ですが、参入の第一歩は失敗から始まりました。それは「全国都道府県対抗eスポーツ選手権 2019 IBARAKI」で行われた『ウイニングイレブン』(現eFootball™)部門の兵庫県代表決定戦の時です。
私は以前の仕事で兵庫県サッカー協会さんとご縁がありまして、「次の国体でeスポーツが競技(文化プログラム)として採用され、兵庫県でも予選大会が行われる」と聞き、「よろしければお手伝いさせてもらえませんか?」というアプローチをしたのがきっかけでした。それがだいたい2018年の秋~年末ぐらい。弊社が管理を受託している商業施設を会場にし、兵庫県内のウイイレプレイヤーを集めて派手に開催しよう! という方向で進めていました。
しかし、いざ蓋を開けてみると……。想定していた数のプレイヤーや観客を集めることができず、集客面、運営面共に自分としては大失敗に終わりました。と言うのも、当時はeスポーツに関する知識はもちろん、現場経験も殆どなかったのに「有名なタイトルでしかも“国体”のイベントだったら、自然と人は集まってくれるだろう」と、高をくくっていたんだと思います。
でも、そんな考えでは当然うまくいくはずがない。今だからよくわかりますが、どんなタイトルの大会やイベントでも、プレイヤー個人やコミュニティの方々といかに連携できるかどうかで、大会の質は大きく左右されます。そうしたことを結果としておろそかにしてしまったあの大会は、もちろんすべてが無駄ではなかったものの、長年イベンターとしてそれなりの自負を持っていた私の中では色んな課題を残しました。
しかし「一言でイベントや大会といっても、毛色の違いがたくさんあるんだ」ということを改めて知れたのは本当にいい経験になりました。
——では、ご自身が携わったeスポーツイベントで手応えを感じた瞬間を教えてください。
北浦:同じ年の9月に、今度は『グランツーリスモSPORT』を用いたeモータースポーツ大会「JEGT GRAND PRIX」を神戸で開催することになりました。先ほどの『ウイイレ』とは全く異なるジャンルですが、あの時の教訓を生かして様々な場所に赴き、いろんな方とのコミュニケーションを積極的にとったことで、現役で活躍されているプロレーサーの方々や自動車関連の企業に多数ご参加いただき、今までになかった大会が実現できたと思います。
この成功は『ウイイレ』の大会で培った経験があってこそなので、参入に至った経緯から繋げると感慨深いものがあります。会社としても一人のイベンターとしても、また一歩成長できたのではないかと思います。
——「エヴァ:e」における活動部門の選定は何か基準等はあるのでしょうか?
北浦:明確にこれが良くてあれが駄目といった基準があるわけではないです。先ほどお話しした通り、私は“陸ゲーマー”なので、いろんな方からゲームのことをたくさん教えていただきつつ、自分なりにも調べながらまずは「どの部門でチームを立ち上げようか」ということから考えました。
現在は他チームへ移籍しましたが、『R6S』部門はやはりその話に欠かせませんね。2019年2月に行われた世界大会「Six Invitational」が大変盛り上がり、国内チームの隆盛も相まったことで、私も素人ながら注目していました。そんな折、たまたま私のイベント会社でアルバイトをしていた子が『R6S』のプレイヤーで、彼からプロチームに所属経験があるプレイヤーを紹介してもらい、またさらにその彼からプロプレイヤーを……という流れで続々と選手たちが集まってくれて、部門を作るまでにいたりました。彼らは発足後すぐに大きな大会で素晴らしい成績を残し、トップリーグへの参戦も果たしてくれて、チームオーナーとして初心者の私にこれ以上ない素晴らしい景色を見せてくれました。他チームで活動する今もずっと感謝していますし、これからも応援していきたいですね。
やはり部門立ち上げの基準は人材ありきです。自分がゲームに対する知識が乏しいものですから、「誰と一緒にやるか」が大きな判断基準になっていたと思います。前述のとおり、本当に人の繋がりの力が実を結んだと言っても過言ではありません。
——昨今のeスポーツ業界はプレイヤーのモラルがとりわけ重視されていますが、「エヴァ:e」の運営にあたって倫理的な教育等はどのように進めていますか?
北浦:『エヴァンゲリオン』は世界的なコンテンツであり、たくさんのファンの方がいらっしゃいます。だからこそ、チームに所属するメンバー及びスタッフは、日々の活動における言動や振る舞いに注意する必要があります。
何気ない行動の1つであっても、「エヴァ:e」の所属メンバーとしてブランドイメージを傷つけることのないよう、しっかり意識を持って臨んでほしいという旨は、チーム加入時にメンバー個々人へ直接伝えています。
——巨大IPを背負うゲーミングチームならではのプレッシャーですね。では、「エヴァ:e」がIPホルダーと共に目指している成果は何でしょうか?
北浦:我々はプロゲーミングチームなので、競技大会でどれだけいい成績を残せるかがまず第一。ただ、大前提にはブランドアンバサダーとしてeスポーツ及び『エヴァンゲリオン』の魅力をそれぞれ発信することも大事です。
競技大会で実績を残すことができれば、情報発信の足がかりにもなりますし、競技シーンに真正面から向き合うことが、ユーザーやスポンサー企業の方々のためになると信じています。
——『エヴァンゲリオン』では「EVA初号機」をはじめ、「EVA零号機」や「EVA2号機」といったさまざまな機体が登場します。「エヴァ:e」でもそうしたバリエーションに伴う展開等はありますか?
北浦:初号機に関しては『エヴァンゲリオン』を象徴する機体ということもあり、チーム立ち上げ時にデザインモチーフとして採用させていただきました。
零号機及び2号機に関する展開等はまだお伝えできませんが、今後一切考えられないということはないし、やはり『エヴァンゲリオン』の魅力を知っていただく上でも何かしらの形で繋げたいと考えています。これからの動向に期待していただけますと幸いです。
——「陸ゲーマーを自称している」とうかがいましたが、プロゲーミングチームをご自身で運営するにあたって“ゲーマーでないことの負い目”を感じることはありますか?
北浦:たまに聞かれますが、負い目を感じることはないです。と言うのも、普段から「エヴァ:e」の所属メンバーにもはっきりと「自分はゲームを全くプレイしない」と伝えているんです。FPSはそもそも画面酔いで長時間プレイできませんし(笑)。でも、それをネガティブに伝えるのではなく、“チームの中で役割分担をしよう”という話へ繋げています。
私はオーナーとして、チーム運営における活動方針の最終判断を行う立場ですが、それは必ずしもゲームの知識やプレイスキルが紐づくものではないという自論があります。「エヴァ:e」のメンバーは当然、ゲームの世界で食べていきたい、有名になりたいという面々なので、毎日熱心にスキルを磨いてもらいたい。その代わり、私がこれまで社会で得た知識や経験などを提供することで、プロゲーマー以前に一人の社会人としてもしっかりと自立できるようになってもらいたいと考えています。
かくいう僕も、会社を経営したりチーム運営をしているからといって、全てに秀でているとは限らない。僕はゲームでわからないことがあれば素直にメンバーへ質問するようにしています。彼らも懇切丁寧に教えてくれるし、「もっとeスポーツに興味を持つ人が増えて欲しい。業界を盛り上げたい」とどこかで思ってくれているはずなんです。だからお互いが得意なことを担当する。言うなれば、“チーム内補完”関係ですよね。
——では、オーナーの立場から「エヴァ:e」の運営方針やチームのプレイスタイルについて考えはありますか?
北浦:チームの運営方針、もっと突き詰めて“チームを強くする”ための方針で言うと、私の存在はそこまで大きく作用していないかもしれません。
と言うのも、各部門を問わずゲームプレイの戦術面に関しては、コーチや選手の自主性にほぼ任せています。なので私が戦術面に口を出すことはほぼないんです。
ただメンタルの部分は別と言いますか、彼らが本来持っているパフォーマンスを発揮できていない時は、様子を見ながら必要に応じて相談に乗りますね。
自分も含めて、「エヴァ:e」は役割分担のもとでチームが成り立っていますので、私はスポンサー様などをはじめとした法人との連携・協業やマクロな視点での運営をメインにしています。一方で、彼らの成績が奮わなかったり、悩みを抱えて困っている時は自己啓発を促すための壁打ち役も担います。時には、私自身のスポーツ経験を交えながら話し合ったりもします。
——最後に、「エヴァ:e」が目指す今後の目標について教えてください。
北浦:競技タイトルによって大会の位置づけは異なりますが、やはり各競技部門が国内の主要大会や国際大会で活躍することを目指したいですね。
eFootball™部門はまさちゅうがすでに何度も国際大会を経験していますが、これからも世界で十分に活躍できる選手です。
新設した『VALORANT』部門や『Apex』部門も粒がそろっているので、国内の公式大会を通じていずれは国際大会へ進み、世界中の方々にeスポーツを通じて『エヴァンゲリオン』の魅力をもっと知っていただきたい。これからが勝負だと思っています。
各部門を問わず、よりいっそう腰を据えて競技シーンに挑むつもりですし、彼らと同様にストリーマー部門のメンバーもさらに活躍できる基盤を作っていってあげたいですね。
アニメ作品の知名度も武器ではあるものの、あくまでチームとしての強さを追求するという「エヴァ:e」。そこには他のeスポーツチームとは異なるミッションはあるものの、基本的なスタンスは他のeスポーツチームとまったく変わらない。
『R6S』部門の終了は残念だが、新たに立ち上げた『VALORANT』と『Apex Legends』もともに大人気のタイトルであり、大会運営という意味ではスポーツゲームやレースゲームなど幅広くさまざまなeスポーツタイトルに関わってもいる。
目先の勝利だけでなく、巨大ブランドのプレッシャーをも強みに変えて邁進する「エヴァ:e」の今後の活躍が楽しみだ。
エヴァ:e
https://eva-e.jp/
アニメとeスポーツという日本初のコラボでも話題となったが、発足当初は『レインボーシックスシージ』(R6S)で、現在では『VALORANT』などの部門で活躍する実力派チームとしても知られている。アニメとしての知名度の高さはチームのブランディングには大きなメリットとなる反面、戦績が問われるeスポーツの世界では、逆に足枷になることもあるかもしれない。おそらくアニメファン、チームファンともに一番聞きたいのは、eスポーツでコラボすることの意義や成果だろう。
今回はそんな「エヴァ:e」の代表である北浦諭氏に、eスポーツ×アニメの先駆者として夢のコラボをどんなふうに考えているのか、そして今後、どんなことにチャレンジしていきたいのか、インタビューを実施した。
北浦諭(きたうらさとし)
プロゲーミングチーム「エヴァ:e」代表。関西を拠点とするeスポーツの総合企画会社「NGM株式会社」の代表でもある。「エヴァ:e」以外に、日本のeモータースポーツの代表的な大会である「JEGT GRAND PRIX」の公式シリーズの運営にも携わっている。
プロゲーミングチーム「エヴァ:e」代表。関西を拠点とするeスポーツの総合企画会社「NGM株式会社」の代表でもある。「エヴァ:e」以外に、日本のeモータースポーツの代表的な大会である「JEGT GRAND PRIX」の公式シリーズの運営にも携わっている。
コラボではなくチームそのものを立ち上げたかった
——まずは、「エヴァ:e」の発足にいたった経緯から教えてください。
北浦:「エヴァ:e」につきましては、私が代表を務めるNGMとは別で「ラナ エンタテインメント」という会社も関わっています。この2社は明確な役割分担がありまして、ラナ エンタテインメントは『エヴァンゲリオン』のeスポーツブランドライセンスの取り扱い、NGMは私がチームオーナーを名乗って「エヴァ:e」の全般的な運営をしています。
NGMは2019年に立ち上げた会社で、「エヴァ:e」以外にもいろいろなeスポーツ事業を手がけています。プロジェクト発足にいたった経緯は、やはりeスポーツ市場の盛り上がりが大きかったと思います。その過程でご縁のあったラナ エンタテインメント(エヴァンゲリオンレーシング運営会社)と提携し、「eスポーツ業界の中で『エヴァンゲリオン』関連のブランドを立ち上げよう。さまざまなeスポーツ会社と協力して展開を試みよう」というお話が出たんです。
その後、『エヴァンゲリオン』全体の著作権を管理している会社さんとも話し合いを重ね、2020年の4月に「EVANGELION e:PROJECT」を立ち上げる運びとなりました。チーム自体は当初4部門、2022年6月現在は『VALORANT』・『Apex Legends』(Apex)・『ストリートファイターV』(ストV)・『eFootball™』・「ストリーマー」の計5部門が活動しています。
我々はeスポーツチームとして競技大会に挑むのと同時に、ブランドアンバサダーという立ち位置も担っています。『エヴァンゲリオン』の世界観を基軸に発売されるeスポーツ商品や取り組みを宣伝し、競技大会やeスポーツ業界において『エヴァンゲリオン』の魅力を伝える。ひいては『エヴァンゲリオン』ファンの方々およびeスポーツファンの方々に興味を持っていただき、双方の業界をより盛り上げていきたい所存です。
陸ゲーマーながらもeスポーツ業界へ突入
——北浦さん自身は以前からゲームやeスポーツに興味はありましたか?
北浦:正直なところ、最近は時間の関係もあってほとんどゲームはしていません。とは言えゲームに興味がないのではなく、若い頃はRPGやシミュレーションゲームを一日中遊んでいたこともありました。なので普段は陸サーファー(見た目はサーファーなのにサーフィンをしない人)にならい、“陸ゲーマー”を自称しています(笑)。
そんなわけで、eスポーツはゲームそのものと言うよりも、どちらかと言えばビジネス的な観点から興味をそそられましたね。私はNGMとは別のイベント会社の代表も務めているのですが、その関係でeスポーツイベントの開催に立ち会ったことがあるんです。ちょうどその頃は国内でもeスポーツ元年と呼ばれて盛り上がり始めていた時期でもあり、「イベント企画のノウハウがeスポーツ業界にも生かせるのでは?」と積極的に意識するようになりました。
そこからは独学でeスポーツ業界のマーケットや競技シーンの動向を調べつつ、本格的な参入を決意してNGMを立ち上げることとなりました。ビジネスありきと聞くと邪な考えに捉えられてしまうかもしれませんが、元々の本業であったイベント屋の血も大いに騒ぎましたね。
コミュニティの存在を実感。失敗から掴んだ大きな成功体験
——「イベント会社のノウハウを生かしたい」という熱意をうかがいましたが、実際にeスポーツ業界へ参入した後の感触はどうでしたか?
北浦:お恥ずかしい話ですが、参入の第一歩は失敗から始まりました。それは「全国都道府県対抗eスポーツ選手権 2019 IBARAKI」で行われた『ウイニングイレブン』(現eFootball™)部門の兵庫県代表決定戦の時です。
私は以前の仕事で兵庫県サッカー協会さんとご縁がありまして、「次の国体でeスポーツが競技(文化プログラム)として採用され、兵庫県でも予選大会が行われる」と聞き、「よろしければお手伝いさせてもらえませんか?」というアプローチをしたのがきっかけでした。それがだいたい2018年の秋~年末ぐらい。弊社が管理を受託している商業施設を会場にし、兵庫県内のウイイレプレイヤーを集めて派手に開催しよう! という方向で進めていました。
しかし、いざ蓋を開けてみると……。想定していた数のプレイヤーや観客を集めることができず、集客面、運営面共に自分としては大失敗に終わりました。と言うのも、当時はeスポーツに関する知識はもちろん、現場経験も殆どなかったのに「有名なタイトルでしかも“国体”のイベントだったら、自然と人は集まってくれるだろう」と、高をくくっていたんだと思います。
でも、そんな考えでは当然うまくいくはずがない。今だからよくわかりますが、どんなタイトルの大会やイベントでも、プレイヤー個人やコミュニティの方々といかに連携できるかどうかで、大会の質は大きく左右されます。そうしたことを結果としておろそかにしてしまったあの大会は、もちろんすべてが無駄ではなかったものの、長年イベンターとしてそれなりの自負を持っていた私の中では色んな課題を残しました。
しかし「一言でイベントや大会といっても、毛色の違いがたくさんあるんだ」ということを改めて知れたのは本当にいい経験になりました。
——では、ご自身が携わったeスポーツイベントで手応えを感じた瞬間を教えてください。
北浦:同じ年の9月に、今度は『グランツーリスモSPORT』を用いたeモータースポーツ大会「JEGT GRAND PRIX」を神戸で開催することになりました。先ほどの『ウイイレ』とは全く異なるジャンルですが、あの時の教訓を生かして様々な場所に赴き、いろんな方とのコミュニケーションを積極的にとったことで、現役で活躍されているプロレーサーの方々や自動車関連の企業に多数ご参加いただき、今までになかった大会が実現できたと思います。
この成功は『ウイイレ』の大会で培った経験があってこそなので、参入に至った経緯から繋げると感慨深いものがあります。会社としても一人のイベンターとしても、また一歩成長できたのではないかと思います。
人材ありきで立ち上げたよりすぐりの競技部門
——「エヴァ:e」における活動部門の選定は何か基準等はあるのでしょうか?
北浦:明確にこれが良くてあれが駄目といった基準があるわけではないです。先ほどお話しした通り、私は“陸ゲーマー”なので、いろんな方からゲームのことをたくさん教えていただきつつ、自分なりにも調べながらまずは「どの部門でチームを立ち上げようか」ということから考えました。
現在は他チームへ移籍しましたが、『R6S』部門はやはりその話に欠かせませんね。2019年2月に行われた世界大会「Six Invitational」が大変盛り上がり、国内チームの隆盛も相まったことで、私も素人ながら注目していました。そんな折、たまたま私のイベント会社でアルバイトをしていた子が『R6S』のプレイヤーで、彼からプロチームに所属経験があるプレイヤーを紹介してもらい、またさらにその彼からプロプレイヤーを……という流れで続々と選手たちが集まってくれて、部門を作るまでにいたりました。彼らは発足後すぐに大きな大会で素晴らしい成績を残し、トップリーグへの参戦も果たしてくれて、チームオーナーとして初心者の私にこれ以上ない素晴らしい景色を見せてくれました。他チームで活動する今もずっと感謝していますし、これからも応援していきたいですね。
やはり部門立ち上げの基準は人材ありきです。自分がゲームに対する知識が乏しいものですから、「誰と一緒にやるか」が大きな判断基準になっていたと思います。前述のとおり、本当に人の繋がりの力が実を結んだと言っても過言ではありません。
——昨今のeスポーツ業界はプレイヤーのモラルがとりわけ重視されていますが、「エヴァ:e」の運営にあたって倫理的な教育等はどのように進めていますか?
北浦:『エヴァンゲリオン』は世界的なコンテンツであり、たくさんのファンの方がいらっしゃいます。だからこそ、チームに所属するメンバー及びスタッフは、日々の活動における言動や振る舞いに注意する必要があります。
何気ない行動の1つであっても、「エヴァ:e」の所属メンバーとしてブランドイメージを傷つけることのないよう、しっかり意識を持って臨んでほしいという旨は、チーム加入時にメンバー個々人へ直接伝えています。
eスポーツ競技シーンに真摯に向き合う
——巨大IPを背負うゲーミングチームならではのプレッシャーですね。では、「エヴァ:e」がIPホルダーと共に目指している成果は何でしょうか?
北浦:我々はプロゲーミングチームなので、競技大会でどれだけいい成績を残せるかがまず第一。ただ、大前提にはブランドアンバサダーとしてeスポーツ及び『エヴァンゲリオン』の魅力をそれぞれ発信することも大事です。
競技大会で実績を残すことができれば、情報発信の足がかりにもなりますし、競技シーンに真正面から向き合うことが、ユーザーやスポンサー企業の方々のためになると信じています。
——『エヴァンゲリオン』では「EVA初号機」をはじめ、「EVA零号機」や「EVA2号機」といったさまざまな機体が登場します。「エヴァ:e」でもそうしたバリエーションに伴う展開等はありますか?
北浦:初号機に関しては『エヴァンゲリオン』を象徴する機体ということもあり、チーム立ち上げ時にデザインモチーフとして採用させていただきました。
零号機及び2号機に関する展開等はまだお伝えできませんが、今後一切考えられないということはないし、やはり『エヴァンゲリオン』の魅力を知っていただく上でも何かしらの形で繋げたいと考えています。これからの動向に期待していただけますと幸いです。
得意分野はそれぞれ違う。だからこそ「エヴァ:e」は光る
——「陸ゲーマーを自称している」とうかがいましたが、プロゲーミングチームをご自身で運営するにあたって“ゲーマーでないことの負い目”を感じることはありますか?
北浦:たまに聞かれますが、負い目を感じることはないです。と言うのも、普段から「エヴァ:e」の所属メンバーにもはっきりと「自分はゲームを全くプレイしない」と伝えているんです。FPSはそもそも画面酔いで長時間プレイできませんし(笑)。でも、それをネガティブに伝えるのではなく、“チームの中で役割分担をしよう”という話へ繋げています。
私はオーナーとして、チーム運営における活動方針の最終判断を行う立場ですが、それは必ずしもゲームの知識やプレイスキルが紐づくものではないという自論があります。「エヴァ:e」のメンバーは当然、ゲームの世界で食べていきたい、有名になりたいという面々なので、毎日熱心にスキルを磨いてもらいたい。その代わり、私がこれまで社会で得た知識や経験などを提供することで、プロゲーマー以前に一人の社会人としてもしっかりと自立できるようになってもらいたいと考えています。
かくいう僕も、会社を経営したりチーム運営をしているからといって、全てに秀でているとは限らない。僕はゲームでわからないことがあれば素直にメンバーへ質問するようにしています。彼らも懇切丁寧に教えてくれるし、「もっとeスポーツに興味を持つ人が増えて欲しい。業界を盛り上げたい」とどこかで思ってくれているはずなんです。だからお互いが得意なことを担当する。言うなれば、“チーム内補完”関係ですよね。
実績を通してチームとブランドの知名度向上に繋げたい
——では、オーナーの立場から「エヴァ:e」の運営方針やチームのプレイスタイルについて考えはありますか?
北浦:チームの運営方針、もっと突き詰めて“チームを強くする”ための方針で言うと、私の存在はそこまで大きく作用していないかもしれません。
と言うのも、各部門を問わずゲームプレイの戦術面に関しては、コーチや選手の自主性にほぼ任せています。なので私が戦術面に口を出すことはほぼないんです。
ただメンタルの部分は別と言いますか、彼らが本来持っているパフォーマンスを発揮できていない時は、様子を見ながら必要に応じて相談に乗りますね。
自分も含めて、「エヴァ:e」は役割分担のもとでチームが成り立っていますので、私はスポンサー様などをはじめとした法人との連携・協業やマクロな視点での運営をメインにしています。一方で、彼らの成績が奮わなかったり、悩みを抱えて困っている時は自己啓発を促すための壁打ち役も担います。時には、私自身のスポーツ経験を交えながら話し合ったりもします。
——最後に、「エヴァ:e」が目指す今後の目標について教えてください。
北浦:競技タイトルによって大会の位置づけは異なりますが、やはり各競技部門が国内の主要大会や国際大会で活躍することを目指したいですね。
eFootball™部門はまさちゅうがすでに何度も国際大会を経験していますが、これからも世界で十分に活躍できる選手です。
新設した『VALORANT』部門や『Apex』部門も粒がそろっているので、国内の公式大会を通じていずれは国際大会へ進み、世界中の方々にeスポーツを通じて『エヴァンゲリオン』の魅力をもっと知っていただきたい。これからが勝負だと思っています。
各部門を問わず、よりいっそう腰を据えて競技シーンに挑むつもりですし、彼らと同様にストリーマー部門のメンバーもさらに活躍できる基盤を作っていってあげたいですね。
———
アニメ作品の知名度も武器ではあるものの、あくまでチームとしての強さを追求するという「エヴァ:e」。そこには他のeスポーツチームとは異なるミッションはあるものの、基本的なスタンスは他のeスポーツチームとまったく変わらない。
『R6S』部門の終了は残念だが、新たに立ち上げた『VALORANT』と『Apex Legends』もともに大人気のタイトルであり、大会運営という意味ではスポーツゲームやレースゲームなど幅広くさまざまなeスポーツタイトルに関わってもいる。
目先の勝利だけでなく、巨大ブランドのプレッシャーをも強みに変えて邁進する「エヴァ:e」の今後の活躍が楽しみだ。
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