【VALORANT】公式大会「VALORANT Champions Tour」から見る『VALORANT』競技シーンに残された6つの課題
- 日本チーム不在によるファンの落胆
- 日本開催でありながら生観戦がしづらい配信スケジュール
- 盛り上がりに欠けるマッチメイク
- 常任チームがただただ優遇される大会システム
- 近い存在だったチームが一変して遠い存在に
- チーム・選手の存続危機ともいえる国内リーグスケジュール
- まとめ
6月25日(日)に閉幕した『VALORANT』の国際大会「VCT Masters Tokyo」。国内外から多くの観客が訪れ、大いに盛り上がり、大成功といえる結果となりました。
ただ、それはオフラインでのイベントとしてみただけで、日本語配信の同時視聴者数はZETA DIVISION(ZETA)が世界3位となった「VCT 2022:Masters Stage1 – Reykjavík」に比べ、大幅に減り、注目度が下がったといえます。その要因となったのが、日本チームの不在でした。ちなみにグローバルの視聴者数も平均同時視聴者数が33万8447人、最高同時視聴者数が83万369人とReykjavikの時の平均同時視聴者数41万6236人、最高同時視聴者数106万5887人とこちらも大きく下回っています。(ESOIRTS CHARTSによるMasters Tokyoの集計:https://escharts.com/tournaments/valorant/vct-2023-masters-tokyo-valorant)
そんな2023年の『VALORANT』シーンは今もなお開催中ではありますが、競技シーンに残された6つの課題を紐解いていきましょう。
【2023.07.26 18時 一部記事を修正しました】
Masters Tokyoは今年から発足したインターナショナルリーグ(VCT Pacific、VCT EMEA、VCT Americas)の3つのリーグから上位3チームが出場できるようになっています。2023年2月に開催された世界大会のLOCK//INで優勝したFnaticが所属するEMEAへのボーナスとして1枠、そして中国から2枠が加えられ、全部で12チームが出場しました。
日本チームはVCT Pacificに参加しているZETAとDetonatioN FocusMe(DFM)の2チームのみが参加資格がありましたが、ZETAが4位、DFMが最下位となり、Masters Tokyoへの参加権を得ることができなかったわけです。
スポーツの世界では、大会を各国の持ち回りで開催する場合、開催国枠が用意されています。今回のMasters Tokyoも当然用意されていたと思っていた人が多かったですが、蓋を開けてみればそんなものはなく、日本で開催しながらも、日本チーム不在という形となりました。
2022年以前の大会でも開催国枠はありませんでしたが、当時は日本だけの出場枠が1~2枠用意されており、確実に参加できる状態でした。他の主要な国にも出場枠がある状態で細分化されていましたが、今回は区分が大雑把であったこと、初めての日本開催ということで、開催国枠があると思っていたユーザーも一定数いました。
イベントとしては大いに盛り上がりましたが、そもそもチケットは出場チームが決まる前に発売し、チケット販売サイトではリセール(転売)こそできましたが、払い戻しはできない仕様になっていました。そのため、日本チームの出場が叶わなくなった時に、TwitterなどSNSではちょっとした炎上騒ぎになったほどです。
元々FPSが好きなコアファンにとってみれば、日本チームが出場するかどうかは二の次といった感じでしたが、昨年のZETAの活躍やその後に行われた各種イベントからファンになった人にとってみれば、日本チームが出場しないことは観戦する意味を失ったといっても過言ではない状態です。
実際にライター仲間の友だちがチケットを取ったとの報を聞き、ライター仲間が「どこのチームがでるかわからないのに良く買ったね」と言ったら、その友人が「え、そうなの?」と状況を把握していないことがあったという話も聞きました。
日本の人気チームであるCrazy RaccoonやFENNELが出場するものだと思っていた人の話も耳に入りました。これは良く理解せずにチケットをとった人が悪いともみえますが、2023年のVCTのシステムは複雑で、メディアを含め、関係者ですら完全に理解している人は少ないと感じたほどでしたので、誰にでもわかるシステムの構築や説明ができていない点に問題あるといえます。
現在の『VALORANT』の人気はストリーマー発信で、ZETAの躍進が拍車をかけたといえます。そのZETAが出場できないとなると、Masters Tokyo自体に興味を失ってしまう人がいたとしても仕方がないといえるでしょう。
VCT Mastersが日本で開催されると発表された時、もしチケットが取れなくても、日本のゴールデンタイムで配信されるため、Masters Reykjavikの時とは比べものにならない程、観やすくなると思っていました。
Masters Reykjavikの時は深夜から早朝にかけ配信され、眠い目をこすりながら視聴し、仮眠をとって会社や学校に行ったわけです。そんな事態にはならないと思って、Masters Tokyoを迎えましたが、試合開始時間はお昼の12時スタートとなり、多くの日本人がライブで視聴しにくい時間帯となりました。
特に平日は学生、社会人のどちらも深夜以上に視聴が難しい時間帯です。Masters Tokyoは1日の試合数が2試合と3試合の時がありました。3試合の時は12時開始でも、遅くとも21時終わりとなりますので、あと2時間、少なくとも1時間は後ろ倒しできた可能性はあります。
そうすれば2試合目は17時スタートとなり、2試合は観られる可能性がでてくるわけです。また、2試合しかない日も12時スタートは変わりませんでした。BO3の試合が2:0、2:0のスコアで試合が終われば16時前には試合が終わってしまいます。開始時間を統一するのではなく、終わり時間に合わせ、3試合行う2試合目の時間からスタートすれば、仕事終わりや学校帰りで観られるようになります。
ちなみに公式サイトにはLAでの開始時間も書いてありました。日本で12時開始の時は20時が開始時間となります。もっとも観やすい時間で配信されていたのは北米のLAということになるでしょう。うがったみかたをすると、日本で開催したものの、配信時間は北米に合わせているといえなくもありません。
日本開催となり、多くの日本人が会場に足を運ぶことができました。しかし、その数十倍、数百倍はいる日本人視聴者にとってみれば、睡眠時間を削ったり、仮眠をとって睡眠時間ずらしたりできたMasters Reykjavik以上に観るのが困難な大会になったといわざるを得ないわけです。学校の授業や会社の仕事をさぼるか休暇を申請するしか、観戦する手段はないわけですから——。
マッチメイクについても疑問が残りました。Masters Tokyoは、各インターナショナルリーグの1位(LOCK//INで優勝したFNATICが所属するEMEAのみ2位も)にシード権が与えられ、ブラケットラウンド(プレーオフ)からの出場となります。それ以外の8チームはグループステージで戦い、半分の4チームがブラケットラウンドに進出できます。ここでシード権のあるチームと勝ち上がったチームによる1回戦が組まれるわけですが、なぜか、PacificとAmericasは同じリーグのチーム同士の対戦となりました。
PRXとDRXの組み合わせはPacificのリーグ戦、Playoffsのアッパーファイナル、グランドファイナルで3戦行われており、すでに見慣れた対戦です。いわばMastersにまで来て観たい組み合わせではないといえます。実際、SNSでもこの組み合わせに疑問を持つファンは多く、こちらも物議を醸していました。
擁護できる点があるとすれば、同地区同士が対戦することによって、どこかの地区が早々に敗退することを避けることができるということでしょうか。それもダブルエリミネーショントーナメントである以上、あまり意味がないともいえます。
また、大会としてもMastersとChampionsの出場条件がほぼ同じで、近しいマッチメイクとなる可能性があります。2回大会を開く意義が見えないといえるでしょう。どちらかは参加条件なしの完全オープントーナメントにするなど、ふたつの大会の差異を大きくすることはできたのではないでしょうか。
日本チームのMasters Tokyoへの参加の可能性について、もう一度考えてみます。先述したとおり、出場の可能性があったのはインターナショナルリーグに所属するZETAとDFMだけでした。ほかの日本チームはVALORANT Challengers Japan(Challengers Japan)という国内リーグで戦っており、これはインターナショナルリーグの下部リーグ扱いとなっています。
実際、Riot GamesではインターナショナルリーグをTier1、Challengers Japanなどの国内リーグをTier2と呼んで格付けをしています。つまり格付けの低いChallengers Japanで優勝してもMastersやChampionsへの出場権は得られません。上の格付けであるインターナショナルリーグへの登竜門となるアセンションへの参加資格が得られるだけです。
このアセンションはPacific、EMEA、Americasのチームが参加するそれぞれの国の国内リーグで優勝したチームが集まり、そこで好成績を残すことで、上位リーグのインターナショナルリーグへの参加が認められることになります。
ただ、今年参加しているチームは常任チームとしてずっとインターナショナルリーグで戦えるのに対して、アセンションを勝ち抜いて参加したチームは2年間の期間限定参加となります。今年はSCARZがChallengers Japanで優勝したので、アセンションで勝ち抜けば来シーズンはVCT Pacificの一員として2年間戦うことを許されるのです。
つまり例え2年連続でリーグ優勝し、すべての世界大会を制したとしても、3年目にはTier2の国内リーグに戻されてしまうわけです。かたや初年度に選ばれた常任チームは2年間で1勝もできず、それどころか1マップも取ることができなかったとしても、インターナショナルリーグに参加し続けることができるのです。
そう考えると入替戦もなく、常任チームとしてずっとインターナショナルリーグで戦える現在のチームはかなり優遇されているといえます。しかし、常任チームが選抜された経緯は不透明で、今までのVCTでの結果ではなく、Riot Gamesに指名によって決定しています。実績のみで選ばれていない部分もあるので、なぜそこまで優遇されるのか納得できていない人も多いでしょう。
世界を目標として戦う意味ではインターナショナルリーグは選手やチームにとって大きな目標といえますが、ファンにとってみれば、喜べない側面もあります。応援したチームが国内リーグで優勝し、そして他国の強豪を蹴散らしアセンションで優勝した先にはインターナショナルリーグへの参加となり、2年間は日本での活動がなくなるという遠い存在になってしまうわけです。
VCT Pacificは地域リーグであり、日本以外に韓国やシンガポール、インドネシア、タイなどからチームが参加していますが、リーグを開催しているのは韓国のみで、実質、韓国の上位リーグといえる状態です。地域リーグというのであれば、ホームアンドアウェイ方式で、ホーム側の国で試合をしてこそかと。もちろん選手にとって移動の負担が増えますし、運営にとってコストが余計にかかると思います。しかし、ファンにとってみれば現状ではPacificは海外で行われている関わりの薄いリーグであり、ほかの国の国内リーグと大差ないとみられるわけです。
そんな興味の薄いリーグに、応援しているチームが行ってしまうのは、ファンにとってマイナスしかなく、チームにとってもファンがほかのチームへ流れてしまうきっかけとなってしまうリスクもあるわけです。そういう意味ではインターナショナルリーグの常任チームは優遇されているどころか、不遇の状況下にあるともいえます。
日本のリーグ、Challengers JapanがPacificの下部リーグとなっている時点で、Challengers Japanが単なる予選リーグに成り下がっているという見方もできます。例え日本のプロ野球よりもメジャーリーグの方が規模やクオリティが上だとしても、あくまでも日本のプロ野球はメジャーリーグと同列であり、マイナーリーグ化しているわけではありません。
サッカーのJリーグだって、プレミアリーグやセリエAの下部組織であり得るわけではないのですから。日本国内のみで完結するリーグとして存在し、世界への挑戦はワールドカップやWBCのような別大会にする方が建設的なのではないでしょうか。
また、Challengers JapanはSplit1とSplit2の2シーズン制をとっていますが、Split1がSplit2の前哨戦となっているのももやもやするところです。Split1で優勝しても賞金と優勝の称号は得られるものの、インターナショナルリーグへの挑戦権もなければ、MastersやChampionsへの参加権もありません。好成績を残した上位チームは、Split2のメインステージからの出場権が与えられるだけです。
予選から出場しなくて済む分、楽になるといえなくないですが、そもそもこのレベルのチームであれば、実力でメインステージ進出はお手の物で、アドバンテージにもならないといえます。
それどころか、Split1でまったく成績が奮わなくてもSplit2で勝ちさえすればアセンションへの挑戦権が得られます。Split1で優勝を争ってきたチームにとってみれば、「Split1とはなんだったのか」となりかねないわけです。Split2でアッパーファイナルを勝ち、グランドファイナルに進出したのはJadeiteでした。
JadeiteはSplit1ではメインステージにも残っておらず、もし勝ち抜ければSplit2のみの成績で結果を出したことになります。結局Split1で3位、Split2で優勝したSCARZが勝ち上がったわけですが、ともすればSplit1の存在意義が問われるところでした。ある意味、巻き返しが図れる方式といえますが、Split1の存在が軽くなり過ぎるので、せめてSplit1のトップ3とSplit2のトップ3によるリーグ戦なり、トーナメントなりを別開催するなど、両方のシーズンの意味を持たせてほしいと感じます。
このレギュレーションについても、多くの人が理解しておらず、ただただ目の前の試合を応援している感じでした。今はムーブメントとして妄信的に応援している人が少なからずいる状態です。そのファンがより深く知っていった時に、システムの難解さやリーグによる隔たりなどを感じて、興味を失ってしまう可能性は十分あると思います。
また、インターナショナルリーグや国内リーグが上半期に集中しており、下半期は試合がまったくない状態が続くことも疑問に感じます。簡単にいってしまえば、下半期はまるまる競技シーンがなくなるため、選手としての露出は減り、選手も成果を示せない練習をひたすら続けるだけの日々が続くわけです。スポンサーのためにも露出をし続けるのであれば、チームが独自のイベントを頻繁に開催しなくてはならず、それはそれでかなりの負担になるのではないでしょうか。
すでに日本だけでなく、欧州、南米、北米など世界各地で『VALORANT』の競技シーンの体制に疑問を持ち、チームを解散したり『VALORANT』部門の解体を決めたりしているところができてきています。それも名門と呼ばれるチームがです。
先に紹介したChallengers Japan Split2で2位となったJadeiteは選手やコーチなどほとんどのメンバーが契約終了となり事実上の解散となりました
『VALORANT』のeスポーツの責任者のひとりであるLeo Faria氏がTwitterで来年度の改革をつぶやいていますので、きっと来年は大きな改善策を施された競技シーンが展開されるのではないでしょうか。ただ、その改善策もグローバルで考えてしまうと国単位で齟齬が出る可能性はあります。それぞれのローカルに合わせた改革が必要となります。日本の事情をよく理解した上で、改善策をしめしてほしいところです。
音楽もスポーツもいまはライブを重視しています。eスポーツは配信の手軽さが人気のひとつ、視聴のきっかけとなったといえますが、今後はライブの価値はより高まっていくのではないかとみています。
そうなった場合は、グローバルではなくローカルでのリーグや大会がより重要になってくるわけです。日本のeスポーツは観戦する文化が急拡大しているので、国内リーグを中心に回すことを考えないと、国内リーグに参戦しているチームは公式大会の重要度を低くせざるを得なくなるでしょう。
独自で配信イベントをやったり、RAGEのように1Dayのお祭り的なイベントを開催したりする方向にシフトしてもおかしくないでしょう。日本では『VALORANT』の人気が高いので、海外のようにチームの解散、部門の解体といったことは即座に行われないと思いますが、少しでも人気に陰りをみせたら、日本のチームも存続する意味を見直すことになるのではないでしょうか。
『VALORANT』の観戦勢はプレイヤーではない場合も多く、ストリーマーや選手、チームを推しており、ゲームそのものを推しているわけではありません。その点をもう一度考慮して、日本の『VALORANT』の競技シーン、引いては日本のeスポーツの競技シーンの在り方を考えてほしいところです。
ただ、それはオフラインでのイベントとしてみただけで、日本語配信の同時視聴者数はZETA DIVISION(ZETA)が世界3位となった「VCT 2022:Masters Stage1 – Reykjavík」に比べ、大幅に減り、注目度が下がったといえます。その要因となったのが、日本チームの不在でした。ちなみにグローバルの視聴者数も平均同時視聴者数が33万8447人、最高同時視聴者数が83万369人とReykjavikの時の平均同時視聴者数41万6236人、最高同時視聴者数106万5887人とこちらも大きく下回っています。(ESOIRTS CHARTSによるMasters Tokyoの集計:https://escharts.com/tournaments/valorant/vct-2023-masters-tokyo-valorant)
そんな2023年の『VALORANT』シーンは今もなお開催中ではありますが、競技シーンに残された6つの課題を紐解いていきましょう。
【2023.07.26 18時 一部記事を修正しました】
日本チーム不在によるファンの落胆
Masters Tokyoは今年から発足したインターナショナルリーグ(VCT Pacific、VCT EMEA、VCT Americas)の3つのリーグから上位3チームが出場できるようになっています。2023年2月に開催された世界大会のLOCK//INで優勝したFnaticが所属するEMEAへのボーナスとして1枠、そして中国から2枠が加えられ、全部で12チームが出場しました。
日本チームはVCT Pacificに参加しているZETAとDetonatioN FocusMe(DFM)の2チームのみが参加資格がありましたが、ZETAが4位、DFMが最下位となり、Masters Tokyoへの参加権を得ることができなかったわけです。
スポーツの世界では、大会を各国の持ち回りで開催する場合、開催国枠が用意されています。今回のMasters Tokyoも当然用意されていたと思っていた人が多かったですが、蓋を開けてみればそんなものはなく、日本で開催しながらも、日本チーム不在という形となりました。
2022年以前の大会でも開催国枠はありませんでしたが、当時は日本だけの出場枠が1~2枠用意されており、確実に参加できる状態でした。他の主要な国にも出場枠がある状態で細分化されていましたが、今回は区分が大雑把であったこと、初めての日本開催ということで、開催国枠があると思っていたユーザーも一定数いました。
イベントとしては大いに盛り上がりましたが、そもそもチケットは出場チームが決まる前に発売し、チケット販売サイトではリセール(転売)こそできましたが、払い戻しはできない仕様になっていました。そのため、日本チームの出場が叶わなくなった時に、TwitterなどSNSではちょっとした炎上騒ぎになったほどです。
元々FPSが好きなコアファンにとってみれば、日本チームが出場するかどうかは二の次といった感じでしたが、昨年のZETAの活躍やその後に行われた各種イベントからファンになった人にとってみれば、日本チームが出場しないことは観戦する意味を失ったといっても過言ではない状態です。
実際にライター仲間の友だちがチケットを取ったとの報を聞き、ライター仲間が「どこのチームがでるかわからないのに良く買ったね」と言ったら、その友人が「え、そうなの?」と状況を把握していないことがあったという話も聞きました。
日本の人気チームであるCrazy RaccoonやFENNELが出場するものだと思っていた人の話も耳に入りました。これは良く理解せずにチケットをとった人が悪いともみえますが、2023年のVCTのシステムは複雑で、メディアを含め、関係者ですら完全に理解している人は少ないと感じたほどでしたので、誰にでもわかるシステムの構築や説明ができていない点に問題あるといえます。
現在の『VALORANT』の人気はストリーマー発信で、ZETAの躍進が拍車をかけたといえます。そのZETAが出場できないとなると、Masters Tokyo自体に興味を失ってしまう人がいたとしても仕方がないといえるでしょう。
日本開催でありながら生観戦がしづらい配信スケジュール
VCT Mastersが日本で開催されると発表された時、もしチケットが取れなくても、日本のゴールデンタイムで配信されるため、Masters Reykjavikの時とは比べものにならない程、観やすくなると思っていました。
Masters Reykjavikの時は深夜から早朝にかけ配信され、眠い目をこすりながら視聴し、仮眠をとって会社や学校に行ったわけです。そんな事態にはならないと思って、Masters Tokyoを迎えましたが、試合開始時間はお昼の12時スタートとなり、多くの日本人がライブで視聴しにくい時間帯となりました。
特に平日は学生、社会人のどちらも深夜以上に視聴が難しい時間帯です。Masters Tokyoは1日の試合数が2試合と3試合の時がありました。3試合の時は12時開始でも、遅くとも21時終わりとなりますので、あと2時間、少なくとも1時間は後ろ倒しできた可能性はあります。
そうすれば2試合目は17時スタートとなり、2試合は観られる可能性がでてくるわけです。また、2試合しかない日も12時スタートは変わりませんでした。BO3の試合が2:0、2:0のスコアで試合が終われば16時前には試合が終わってしまいます。開始時間を統一するのではなく、終わり時間に合わせ、3試合行う2試合目の時間からスタートすれば、仕事終わりや学校帰りで観られるようになります。
ちなみに公式サイトにはLAでの開始時間も書いてありました。日本で12時開始の時は20時が開始時間となります。もっとも観やすい時間で配信されていたのは北米のLAということになるでしょう。うがったみかたをすると、日本で開催したものの、配信時間は北米に合わせているといえなくもありません。
日本開催となり、多くの日本人が会場に足を運ぶことができました。しかし、その数十倍、数百倍はいる日本人視聴者にとってみれば、睡眠時間を削ったり、仮眠をとって睡眠時間ずらしたりできたMasters Reykjavik以上に観るのが困難な大会になったといわざるを得ないわけです。学校の授業や会社の仕事をさぼるか休暇を申請するしか、観戦する手段はないわけですから——。
盛り上がりに欠けるマッチメイク
マッチメイクについても疑問が残りました。Masters Tokyoは、各インターナショナルリーグの1位(LOCK//INで優勝したFNATICが所属するEMEAのみ2位も)にシード権が与えられ、ブラケットラウンド(プレーオフ)からの出場となります。それ以外の8チームはグループステージで戦い、半分の4チームがブラケットラウンドに進出できます。ここでシード権のあるチームと勝ち上がったチームによる1回戦が組まれるわけですが、なぜか、PacificとAmericasは同じリーグのチーム同士の対戦となりました。
PRXとDRXの組み合わせはPacificのリーグ戦、Playoffsのアッパーファイナル、グランドファイナルで3戦行われており、すでに見慣れた対戦です。いわばMastersにまで来て観たい組み合わせではないといえます。実際、SNSでもこの組み合わせに疑問を持つファンは多く、こちらも物議を醸していました。
擁護できる点があるとすれば、同地区同士が対戦することによって、どこかの地区が早々に敗退することを避けることができるということでしょうか。それもダブルエリミネーショントーナメントである以上、あまり意味がないともいえます。
また、大会としてもMastersとChampionsの出場条件がほぼ同じで、近しいマッチメイクとなる可能性があります。2回大会を開く意義が見えないといえるでしょう。どちらかは参加条件なしの完全オープントーナメントにするなど、ふたつの大会の差異を大きくすることはできたのではないでしょうか。
常任チームがただただ優遇される大会システム
日本チームのMasters Tokyoへの参加の可能性について、もう一度考えてみます。先述したとおり、出場の可能性があったのはインターナショナルリーグに所属するZETAとDFMだけでした。ほかの日本チームはVALORANT Challengers Japan(Challengers Japan)という国内リーグで戦っており、これはインターナショナルリーグの下部リーグ扱いとなっています。
実際、Riot GamesではインターナショナルリーグをTier1、Challengers Japanなどの国内リーグをTier2と呼んで格付けをしています。つまり格付けの低いChallengers Japanで優勝してもMastersやChampionsへの出場権は得られません。上の格付けであるインターナショナルリーグへの登竜門となるアセンションへの参加資格が得られるだけです。
このアセンションはPacific、EMEA、Americasのチームが参加するそれぞれの国の国内リーグで優勝したチームが集まり、そこで好成績を残すことで、上位リーグのインターナショナルリーグへの参加が認められることになります。
ただ、今年参加しているチームは常任チームとしてずっとインターナショナルリーグで戦えるのに対して、アセンションを勝ち抜いて参加したチームは2年間の期間限定参加となります。今年はSCARZがChallengers Japanで優勝したので、アセンションで勝ち抜けば来シーズンはVCT Pacificの一員として2年間戦うことを許されるのです。
つまり例え2年連続でリーグ優勝し、すべての世界大会を制したとしても、3年目にはTier2の国内リーグに戻されてしまうわけです。かたや初年度に選ばれた常任チームは2年間で1勝もできず、それどころか1マップも取ることができなかったとしても、インターナショナルリーグに参加し続けることができるのです。
そう考えると入替戦もなく、常任チームとしてずっとインターナショナルリーグで戦える現在のチームはかなり優遇されているといえます。しかし、常任チームが選抜された経緯は不透明で、今までのVCTでの結果ではなく、Riot Gamesに指名によって決定しています。実績のみで選ばれていない部分もあるので、なぜそこまで優遇されるのか納得できていない人も多いでしょう。
— CR.おじじ (@riteiruozisan) September 21, 2022
近い存在だったチームが一変して遠い存在に
世界を目標として戦う意味ではインターナショナルリーグは選手やチームにとって大きな目標といえますが、ファンにとってみれば、喜べない側面もあります。応援したチームが国内リーグで優勝し、そして他国の強豪を蹴散らしアセンションで優勝した先にはインターナショナルリーグへの参加となり、2年間は日本での活動がなくなるという遠い存在になってしまうわけです。
VCT Pacificは地域リーグであり、日本以外に韓国やシンガポール、インドネシア、タイなどからチームが参加していますが、リーグを開催しているのは韓国のみで、実質、韓国の上位リーグといえる状態です。地域リーグというのであれば、ホームアンドアウェイ方式で、ホーム側の国で試合をしてこそかと。もちろん選手にとって移動の負担が増えますし、運営にとってコストが余計にかかると思います。しかし、ファンにとってみれば現状ではPacificは海外で行われている関わりの薄いリーグであり、ほかの国の国内リーグと大差ないとみられるわけです。
そんな興味の薄いリーグに、応援しているチームが行ってしまうのは、ファンにとってマイナスしかなく、チームにとってもファンがほかのチームへ流れてしまうきっかけとなってしまうリスクもあるわけです。そういう意味ではインターナショナルリーグの常任チームは優遇されているどころか、不遇の状況下にあるともいえます。
チーム・選手の存続危機ともいえる国内リーグスケジュール
日本のリーグ、Challengers JapanがPacificの下部リーグとなっている時点で、Challengers Japanが単なる予選リーグに成り下がっているという見方もできます。例え日本のプロ野球よりもメジャーリーグの方が規模やクオリティが上だとしても、あくまでも日本のプロ野球はメジャーリーグと同列であり、マイナーリーグ化しているわけではありません。
サッカーのJリーグだって、プレミアリーグやセリエAの下部組織であり得るわけではないのですから。日本国内のみで完結するリーグとして存在し、世界への挑戦はワールドカップやWBCのような別大会にする方が建設的なのではないでしょうか。
また、Challengers JapanはSplit1とSplit2の2シーズン制をとっていますが、Split1がSplit2の前哨戦となっているのももやもやするところです。Split1で優勝しても賞金と優勝の称号は得られるものの、インターナショナルリーグへの挑戦権もなければ、MastersやChampionsへの参加権もありません。好成績を残した上位チームは、Split2のメインステージからの出場権が与えられるだけです。
予選から出場しなくて済む分、楽になるといえなくないですが、そもそもこのレベルのチームであれば、実力でメインステージ進出はお手の物で、アドバンテージにもならないといえます。
それどころか、Split1でまったく成績が奮わなくてもSplit2で勝ちさえすればアセンションへの挑戦権が得られます。Split1で優勝を争ってきたチームにとってみれば、「Split1とはなんだったのか」となりかねないわけです。Split2でアッパーファイナルを勝ち、グランドファイナルに進出したのはJadeiteでした。
JadeiteはSplit1ではメインステージにも残っておらず、もし勝ち抜ければSplit2のみの成績で結果を出したことになります。結局Split1で3位、Split2で優勝したSCARZが勝ち上がったわけですが、ともすればSplit1の存在意義が問われるところでした。ある意味、巻き返しが図れる方式といえますが、Split1の存在が軽くなり過ぎるので、せめてSplit1のトップ3とSplit2のトップ3によるリーグ戦なり、トーナメントなりを別開催するなど、両方のシーズンの意味を持たせてほしいと感じます。
このレギュレーションについても、多くの人が理解しておらず、ただただ目の前の試合を応援している感じでした。今はムーブメントとして妄信的に応援している人が少なからずいる状態です。そのファンがより深く知っていった時に、システムの難解さやリーグによる隔たりなどを感じて、興味を失ってしまう可能性は十分あると思います。
また、インターナショナルリーグや国内リーグが上半期に集中しており、下半期は試合がまったくない状態が続くことも疑問に感じます。簡単にいってしまえば、下半期はまるまる競技シーンがなくなるため、選手としての露出は減り、選手も成果を示せない練習をひたすら続けるだけの日々が続くわけです。スポンサーのためにも露出をし続けるのであれば、チームが独自のイベントを頻繁に開催しなくてはならず、それはそれでかなりの負担になるのではないでしょうか。
Ascension LAN ends July 9th, amount of teams most likely scrimming afterwards, 0.
— NRG Chet (@chetsingh) June 29, 2023
NA LCQ ends July 23rd, amount of teams most likely scrimming afterwards, 0. (during event a few)
High quality teams to prac in total will be 4 teams and Champs starts August 6th.
Good…
まとめ
すでに日本だけでなく、欧州、南米、北米など世界各地で『VALORANT』の競技シーンの体制に疑問を持ち、チームを解散したり『VALORANT』部門の解体を決めたりしているところができてきています。それも名門と呼ばれるチームがです。
先に紹介したChallengers Japan Split2で2位となったJadeiteは選手やコーチなどほとんどのメンバーが契約終了となり事実上の解散となりました
【VALORANT Div. Announcement】
— Jadeite(ジェダイト) (@Team_Jadeite) June 30, 2023
今後のVALORANT部門について、以下の通りご報告致します。
Art, Brofeld, Akame, iZu, noppo, Bullco, KyowL
- 6/30を以って契約終了
muto
- FA
詳細についてはこちらをご確認ください。https://t.co/KN26Ewc5Hq pic.twitter.com/TdC1z36MQk
『VALORANT』のeスポーツの責任者のひとりであるLeo Faria氏がTwitterで来年度の改革をつぶやいていますので、きっと来年は大きな改善策を施された競技シーンが展開されるのではないでしょうか。ただ、その改善策もグローバルで考えてしまうと国単位で齟齬が出る可能性はあります。それぞれのローカルに合わせた改革が必要となります。日本の事情をよく理解した上で、改善策をしめしてほしいところです。
Details on the 2023 offseason are coming, but the big change comes next year with an overhaul of the tier 2 ecosystem with competitions year-round and a strong connection with Premier. I acknowledge this year is a bit tough, but we're very committed to making tier 2 thrive.
— Leo Faria (@lhfaria) June 6, 2023
音楽もスポーツもいまはライブを重視しています。eスポーツは配信の手軽さが人気のひとつ、視聴のきっかけとなったといえますが、今後はライブの価値はより高まっていくのではないかとみています。
そうなった場合は、グローバルではなくローカルでのリーグや大会がより重要になってくるわけです。日本のeスポーツは観戦する文化が急拡大しているので、国内リーグを中心に回すことを考えないと、国内リーグに参戦しているチームは公式大会の重要度を低くせざるを得なくなるでしょう。
独自で配信イベントをやったり、RAGEのように1Dayのお祭り的なイベントを開催したりする方向にシフトしてもおかしくないでしょう。日本では『VALORANT』の人気が高いので、海外のようにチームの解散、部門の解体といったことは即座に行われないと思いますが、少しでも人気に陰りをみせたら、日本のチームも存続する意味を見直すことになるのではないでしょうか。
『VALORANT』の観戦勢はプレイヤーではない場合も多く、ストリーマーや選手、チームを推しており、ゲームそのものを推しているわけではありません。その点をもう一度考慮して、日本の『VALORANT』の競技シーン、引いては日本のeスポーツの競技シーンの在り方を考えてほしいところです。
【岡安学 プロフィール】
eスポーツを精力的に取材するフリーライター。ゲーム情報誌編集部を経て、フリーランスに。さまざまなゲーム誌に寄稿しながら、攻略本の執筆も行い、関わった書籍数は50冊以上。現在は、Webや雑誌、Mookなどで活動中。近著に『みんなが知りたかった最新eスポーツの教科書』(秀和システム刊)、『INGRESSを一生遊ぶ!』(宝島社刊)
Twitter:@digiyas
eスポーツを精力的に取材するフリーライター。ゲーム情報誌編集部を経て、フリーランスに。さまざまなゲーム誌に寄稿しながら、攻略本の執筆も行い、関わった書籍数は50冊以上。現在は、Webや雑誌、Mookなどで活動中。近著に『みんなが知りたかった最新eスポーツの教科書』(秀和システム刊)、『INGRESSを一生遊ぶ!』(宝島社刊)
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