『スマブラSP』海外大会「Temple Hermès Edition」参戦ウラ話【GUREN てぃー&コメ インタビュー】

2021.9.29 宮下英之
2021年9月4〜5日にかけて、フランス・リールのスタジアムで『大乱闘スマッシュブラザーズSpecial』のコミュニティ大会「Temple: Hermès Edition」が開催された。

日本からは、GUREN所属のてぃー選手、コメ選手と、SBI e-sports所属のKEN選手が招待選手として参戦し、てぃー選手が見事優勝。コメ選手も5位タイに入賞を果たした。

主催者からの招待で実現した「Temple」参戦だったが、この情勢下での海外大会参戦は、普段の海外遠征とは異なるトラブルもあった。事実、このインタビューも帰国直後に羽田空港にて行う予定だったが、空港に降りたところでふたりはそのまま3日間の強制隔離となり対面取材はNGに。あらためて後日オンラインでのインタビューを余儀なくされてしまった。

コロナ禍でのさまざまな制約やイレギュラーな出来事の中での大会遠征の裏話、久々のアウェーでのオフライン大会の様子に加えて、オンラインのみとなった『スマブラSP』のプロゲーマーの活動やこの状況をどのように考えているのか。緊急事態宣言下の今しか聞けないインタビューをお届けする。


海外大会ならではのアウェー感&感染リスクの中での試合


ーー久々の海外でのオフライン大会、お疲れさまでした。

てぃー:1年以上振りの海外遠征でした。2019年はめちゃめちゃ行かせてもらっていたので慣れもあったんですが、今回は経験値がリセットされて新鮮味を感じましたね。

海外遠征って、地元選手の応援が多くてアウェー感があるんです。配信されていたトップ8では僕の応援をしてくれる人もいたんですけど、予選では僕の味方が一人もいなかったので、雰囲気に飲まれて危ない試合もある中で勝てたのはいい経験でしたね。

ーー現在はほとんどの大会がオンラインですが、あらためてオフラインの良さは感じられましたか?

てぃー:まず、オフラインはオンラインと比べて遅延が少ないんですね。オンラインでは6フレームくらい遅延があって、ジャズガ(ジャストガード)などは自分の思うように動けなかったりと、『スマブラSP』は割とオンラインとオフラインの差が激しいです。

人によっていろいろな意見があるんですけど、キャラのランクもオフラインとオンラインでは変わってくるほどです。

スタジアムで戦うてぃー選手

ーー振り返り配信では、「まさかこんな屋内でやるとは思っていなかった」と狭い空間での対戦への不安を語っていましたが、事前に会場の情報は聞いていなかったんですか?

てぃー:そうですね、聞いていた話とは違いました(笑)。「サッカースタジアムで広いから安全ですよ」と言われていたのに、予選はかなり密な屋内だったので、少しコロナへの心配は感じましたね。

予選が行われた会場の様子。マスクはしているものの、いつものオフライン大会と変わらぬ熱気だった

ーーたしかにこのご時世ですし、感染対策は気になってしまいますよね。でも、配信を見ると選手も観客もたくさんいてうれしくも思いました。会場やファンの熱気とかはどうでしたか?

てぃー:もう、めちゃめちゃ盛り上がっていました! 現地のGlutonnyという選手がすごい人気で、フランスのスマブラシーンは彼の力が大きいんだと、対戦していても思いました。

ーーコメ選手もたくさん応援は集まっていたそうですね。

コメ:やっぱり現地の熱気はすごいなと感じましたね。

ただ今回の大会、僕はハードスケジュールだったので、あまり周りの空気を感じる余裕がなくて。予選もかなりギリギリ勝てたという感じです。

ーー噂によると、コメ選手は2泊7日の強行軍だったとか……。

コメ:実は、フランスに入国する際「AまたはB」という2種類の必要書類があって、僕はAを、てぃーくんはBを用意していたんです。ところが“いざ出国!”という時に、フランスへの入国書類とは別に日本からの出国の書類が必要だと言われて……それがBの書類だったんです。要はAの書類だけではフランスに入国できても日本から出国ができなかったんです。

「終わった〜」と思って「Temple」の主催者に連絡したら、「今から飛行機取り直すから来て!」と言ってくれて。大会は土日で、当初水曜日発だったんですが、金曜日の便で行くことになりました。書類も金曜日の朝にギリギリ用意できて、なんとかパリに土曜日の13時、予選開始3時間前に到着できました。海外渡航に関する情報ってとてもわかりにくいんですよね。

控室はスタジアムで選手たちが使うのと同じロッカー。コメ選手はできる限り体力を温存して臨んだ

ーーかなりギリギリだったんですね……。

コメ:無駄に体力を使うわけにはいかなかったので、飛行機では寝るか目をつぶって瞑想していました(笑)。ただ、不幸中の幸いというか、大会の進行も2時間くらい遅れていたので余裕はありました。

てぃー:書類Bは、お金がかかるけど早めに取得できるからと選んだだけなので、僕も危なかったですね……。


予選に潜む無名の地元プレイヤー


ーーそんなこんなで、パリに到着してからの「Temple」の戦いについても聞かせてください。

てぃー:一番危なかったのは1日目の予選でした。今回僕らは招待はされたものの予選からの参戦だったんですが、地元のLeMonkeというディディーコング使いと対戦して。全然名前を知らなかったんですけど、めちゃめちゃアグレッシブで1本取られてしまいました。「予選に潜む悪魔」みたいな感じでしたね。

地元の人もめちゃめちゃ応援していて、「やべぇ、飲まれる」って思ったくらい危なかったですね。最後はなんとか修正できたんですけど。

優勝したてぃー選手はフランスでもよく知られていたという

ーー最近のてぃー選手を見ていると、まるで負ける気がしない、という調子の良さを感じていましたけど……。

てぃー:1日目ということもあって、手が温まっていないというか、思うように動かなかったんです。僕、スロースターターなので、予選が一番危ないんですよ。そこを乗り越えると上までいけるんですけどね。

なかなかスイッチが入らなくて、やりづらい大会ではありましたね。2日目は緊張もとけて、TOP8までは全部3−0で勝てました。

コメ:大会全体を見返してもイージーミスがあったり動きの精度が悪くて、反省点が多い大会になっちゃいましたね。

初日、ピカチュウ使いのEnkiっていうクオーターファイナルの相手に、最初に1本取られて2本目もギリギリまで追い詰められて、3本目も自分のミスがあったりしましたがギリギリ勝てました。オーディエンスもみんなEnkiを応援するのでヤバかったですね。

孤高のシュルク使いとして、コメ選手も海外で注目されている

ーー体調のこともあったと思いますが、1年間オフライン大会がなかったことの影響も感じましたか?

コメ:Enki戦の時に、全体的にフランスの選手は反応速度が速いというか、ゲームスピードが早く感じました。

日本人の反応速度を想定して動いていたら、相手がしっかり反応してきて。日本で戦っていると差し返しとか反撃をしてこないシチューエーションからでも反撃されたんです。

ーーおふたりともそれぞれ苦しい場面があったわけですね。

てぃー:飛行機で数十時間かけて行っているので、負けられないというプレッシャーもありましたね。

日本人対決となったTOP8


ーーTOP8はいかがでしたか?

てぃー:TOP8はほとんど日本人としか対戦していないんですけど、僕は「海外だから」とか「大会だから」とかはあまり感じなかったですね。

でも、招待選手が発表されて、コメさんとKENが行くと決まった時には、絶対このふたりが勝ち上がるだろうと思ったので対策は立てていました。

海外選手で対策したのはGlutonnyくらいです。絶対勝ち上がってくることはわかっていたので。

コメ:当たることはなかったんですけど、KENソニックの対策はかなりしました。ソニックに苦手意識が強くて結構負けちゃうんですけど、そろそろ勝ちたいと思って。あとはGlutonnyですね。

てぃーくんとはさまざまな大会で対戦しているんですけど、試合中にどれだけ修正できるかを意識しています。

ーーそして、運命のいたずらか、同チームのふたりが当たることになってしまったと。どうでしたか?

てぃー:今回は、最後にコメさんが操作ミスで落ちていった印象しかなくて(笑)。そこしか覚えていないです。

コメ:僕もそうですね。状況的には有利なところから操作ミスで自滅して終わったという、一番悔やまれる負け方をしてしまいました。

大きな大会では必ず見られる、てぃーvsコメのカードはフランスでも組まれた

てぃー:大会の魔物がいましたよね。1回も見たことのない操作ミスだったので。

コメ:崖の外に移動回避で間違えて落ちて、その硬直が解けなくてそのまま落ちちゃいました。

ーーそして、てぃー選手は決勝戦でGlutonny選手との戦いでしたね。

てぃー:Glutonnyとは過去に2回当たっていて、スコア的にも余裕で2回とも勝っているんです。ただ、今回はめちゃめちゃ強くなっていると感じました。自粛期間を経て、地力が上がっていました。

彼が使うワリオというキャラクターが、最近弱体化されたんですよ。なのに前に戦った時よりも苦戦したので、びっくりしましたね。おならの発生フレームが遅くなってコンボにつなげにくくなったんですけど、関係ないって感じでした。

決勝戦はてぃーvs Glutonny。大歓声の中での対決となった

ーーアウェーで自国選手が戦う決勝戦ということもあり、サッカーさながらの盛り上がりでしたね。

てぃー:試合中はイヤホンをしながらやっていたんですけど、イヤホンごしに聞こえてくる会場の声がすごかったです。

コメ:なんなら物理的に震えてたしね、会場(笑)。看板とかをバンバン叩いて盛り上がってた。

てぃー:ああいうのはなかなか日本ではないですね。その選手に1回でも負けると苦手意識がついちゃうんですけど、Glutonnyには負けたことがなかったので、ポジティブな気持ちでは戦えました。

観客席はスタジアムの一面のみだったが、それでもこの盛り上がり

ーー対策されている感じはしましたか?

てぃー:おならもうまいんですけど、復帰阻止がうまいと感じました。パックマンって復帰が強いキャラなんですけど、そこら辺は詰めてきたんでしょう。

でも最終的に勝利した後はGlutonnyのファンも讃えてくれて、写真撮影をお願いされたりもしました。1時間くらい撮りまくってましたね。

コロナ禍に反して『スマブラSP』シーンは拡大した


ーーあらためて振り返ると、オフライン大会がほとんどなかったこの1年間、腕はなまったりはしませんでしたか?

てぃー:僕は上がっていると思います。オンラインとはいえプレイ時間は多いので、下手になることはないかなと。


コメ:最近新しいキャラクターの「ホムラ/ヒカリ」が追加されて、そっちの練習に時間を費やしているので、成長は感じられました。まだ練度的な問題で試合には出しませんけど。

シュルクは勝てる時は全キャラに勝てるので、極論はシュルクでいいんです。ただ、ホムラ/ヒカリはミスさえしなければ安定感が高いキャラだと思うので、シュルクで安定しないキャラに当てられればと思います。

ーーこの1年、いろいろな大会ができなくなってしまいましたが、お二人ともしっかり成績を出せるのはすごいと思います。今のモチベーションの保ち方はどんな感じですか?

てぃー:モチベーションの維持には他の人より苦労しないというか、気がついたら『スマブラ』を遊んでいるんです。朝起きたらとりあえずSwitchの電源を入れて……という生活で、YouTubeとか配信しながらやっていれば楽しいですしね。

無理やりモチベを上げようとしている人もいる中で、そういう人よりは幸せだなと思います。きつい思いをしてゲームをやらなくてもいいですからね。

コメ:ホムラ/ヒカリという新キャラの練習がモチベになっています。練習は「楽しい」というよりは「やらないとスッキリしない」んです。



ーーてぃー選手はナチュラルな天才、コメ選手はアスリート的な努力家という印象ですね。コロナ禍以降の『スマブラSP』シーンについてはいかがでしょうか? オンライン大会が増えてやや寂しい気もしていますが……。

てぃー:実は、明らかに大会の視聴者数はコロナ前よりも上がっているんですよね。

理由のひとつは、スマブラプレイヤーだけでなく、いろいろなYouTuberさんが頑張って盛り上げてくれているからだと思うんです。それによって、YouTuberが好きな視聴者が『スマブラ』に興味を持つようにもなってくれて。

コロナ前に開催された「EVO JAPAN」の視聴数は3万人くらいだったらしいんですが、継続的に開催されているコミュニティ大会「篝火」の視聴者が5万7000人でむちゃくちゃ増えました。コロナ禍を経て、動画で『スマブラSP』が注目されたのかなと思います。

その証拠に、昔は大会が開かれてもTwitterのトレンド入りとかそれほどしなかったんです。でも今は海外の大会であってもほぼ100%トレンド入りしますし、今回の「Temple」も日本は早朝だったのに僕の名前がトレンド入りして、めちゃめちゃ注目されているなって思います。ありがたいです。

ーー『スマブラSP』にとってはオンラインのいい面もあったわけですね。最後に「Temple」を見てくれたファンに向けてメッセージをお願いします。

コメ:「Temple」は反省点の多い大会だったので、ゼロにはできないと思うんですけど、今後はできるだけミスを減らしたいと思っています。トレモでの操作練習を増やすことと、寝る前に30分〜1時間程度配信もしているので、それを続けていきたいですね。

YouTubeのメンバーシップもやっていて、専用のディスコードも作っています。そこで、質問を書き込んでもらったり、月に1回フレンド対戦会なんかもしていますので、よかったら参加してみてください。

てぃー:今、海外ではホムラ/ヒカリやセフィロスみたいなDLCが流行っているんですけど、パックマンはDLCに不利になりがちなんです。新キャラって総じて強キャラが多いのでキツイんですよね。

日本のプレイヤーは職人系が多いですけど、海外はプレイヤーのキャラ替えが早くて、すぐに強キャラを使って結果も出しているので、彼らに負けないように臨みたいですね。

10月に緊急事態宣言が解除されたら、大会もオフラインで開催できるように準備しているようですし、引き続き頑張ります。



帰国後の3日間のホテル隔離から解放された直後のふたり。本当におつかれさまでした……

ーーー

海外大会での慣れない“余計な手続き”を強いられる中で、しっかり実力を発揮したてぃー選手とコメ選手の強さは、あらためて国内外のファンにも知られることとなった。

同時に、自宅でのオンライン活動を余儀なくされたプロ選手たちが、この期間を利用して着実に実力を積み重ねていることも証明された。ライバルも同じことだが、日本人選手たちの『スマブラSP』での強さは、「Temple」によって再認識されただろう。

てぃー選手が言うように、eスポーツのオンライン化による功罪はありつつも、『スマブラSP』のプロシーンが広がっていることは間違いない。自分でプレイすることはもちろん、大会やプロ選手の配信を楽しむ文化も定着しているように感じる。

この勢いを維持できれば、きっとコロナ禍が明けた時に『スマブラSP』シーンはさらに大きなものになっていく。てぃー選手、コメ選手の今後の活動にも期待したい。


てぃーのTwitter:https://twitter.com/chibiT2169
てぃーのYouTube:https://www.youtube.com/channel/UCM69W19x0V4uD_-NRw5BM_Q
コメのTwitter:https://twitter.com/komesuma
コメのYouTube:https://www.youtube.com/channel/UCaYxc3XQT398aGs5rbAsk2A
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