【インタビュー】翔「“なんも言えねえ”ってこんなことなんだなって(笑)」——賞金1億5,000万円を獲得した『スト6』の世界王者が語った勝利の手応えとは

ストリートファイター6』の世界大会カプコンカップ11」が2025年3月5日(水)〜8日(土)にかけて両国国技館で開催。福島県のeスポーツチームIBUSHIGIN所属の翔選手が見事世界王者に輝き、優勝賞金1億5,000万円(100万ドル)を獲得した。

カプコンカップとは

1年を通して世界各国で開催される「ストリートファイター」シリーズの公式大会カプコンプロツアーCPT)」で優秀な成績を収めた選手のみが参加できる年に一度の大会。

https://sf.esports.capcom.com/capcomcup/cc11/jp/

世界各国の強豪48名が集結した「カプコンカップ11」は、「カプコンカップ」初となる日本開催となり、また92年から94年にかけて「ストリートファイターII」シリーズの大会が行われ、国技「大相撲」の会場でもある両国国技館で開催。決勝トーナメントが開催された8日(土)は満員御礼の大にぎわいだった。

▲eスポーツタイトルのトロフィーが掲げられているバックには大相撲の取組表が——。これだけでもエモい

翔選手の優勝は、日本中のファンが見守る中、日本人選手が優勝するという、いわば「ジャパニーズ・ドリーム」ともいえる快挙。そんな翔選手が、優勝直後にメディア合同インタビューに応じてくれたので、その様子をお届けしよう。



日本人選手たちの気持ちを背負って戦えた——翔選手インタビュー


——優勝おめでとうございます。決勝戦はお互い緊張が高まる中試合が展開されていたと思います。どのようにメンタルを維持して戦っていましたか?

翔:やはり日本の国技館で開催されて、応援してくれているファンの皆さん、決勝トーナメントで敗退していった日本人選手たちの気持ちを背負って戦えたからだと思います。(プレッシャーで)ずっと吐きそうでしたけど、それに耐えながらがんばりました(笑)。

——「カプコンカップ」初の日本開催という場で優勝を果たしましたが、改めて優勝した気持ちはいかがですか。

翔:「なんも言えねえ」ってこんなことなんだなって(笑)。感無量ですね。それくらいの言葉しかでてこないですね。

※2008年8月11日(月)に開催された北京オリンピックの男子100m平泳ぎ決勝で、北島康介選手が世界新記録を更新して金メダルを獲得。その際、北島選手はタオルに顔をうずめてしばし絶句し「なんも言えねえ」と感無量を表現した

——ステージの上では何度も手で顔を覆うシーンがありましたが、やはりこみ上げてくるものがありましたか。

翔:
まぁまぁまぁ……(笑)。大会で優勝してあんなになることはなかったんですけど、やっぱりさすがに日本開催で国技館でって——。うわぁぁあってなりましたね。

▲大きなガッツポーズをするかと思いきや、対戦相手のBlaz選手とハグをしたあと、さまざまな感情が交錯しているような表情を続ける翔選手。国技館という日本のファンが多く見守る中での優勝は、何ものにも代えがたい瞬間だったに違いない

——最終決戦で戦ったBlaz選手は、翔選手に次ぐパフォーマンスだったと思います。率直に、決勝戦はどのような気持ちで挑みましたか?


翔:Blazはすごい勢いがあって、一度倒したとはいえ正直戦いたくなかった相手でした。ルーザーズサイドではリュウを使って勝ち上がり、めちゃくちゃ勢いに乗っていたので、そのままの勢いで来られたら嫌だなって——。ただ、その流れに乗せない動きは(僕自身)得意だと思っているので、それを意識して戦いました。

いうならば、合気道的な「敵の勢いを、そのまま相手に返すみたいな」感じですね。

▲決勝戦の相手となったBlaz選手は15歳の最年少プレーヤー。決勝トーナメントでは第1戦で翔選手が3:0で勝利した相手だったが、ルーザーズサイドから這い上がり、決勝戦で再戦するというリベンジマッチだった(https://www.youtube.com/watch?v=xopcGMIU4e4&t=3330s

——競技シーンではレアなキャラクターでもあるリュウと決勝戦で当たりました。翔選手から見てBlaz選手のリュウは、一般的なプレーヤーのリュウと大きな違いはあったのでしょうか。

翔:リュウというよりは、この大舞台であの年齢であのプレーができるというのが本当にすごいことだと思っています。僕もグループ総当たり戦では調子を崩してしまったように、本番では今までやってきた動きが出せないことが当たり前だと思っている中、Blazはメンタルコントロールができているなと感じました。

初戦で僕がBlazを倒した際、彼の親御さんやコーチがアドバイスしているのを見かけました。そういったサポートもあって立て直していたのかなぁと。まあ、あの年齢ですごいなぁと思いましたね。

▲異国の地で大歓声が巻き起こる中、表情をひとつ変えずに着実に勝利をつかんでいくBlaz選手。まさに神童といったプレーヤーだ

——決勝トーナメントに残ったLeshar(れしゃー)選手も国内の競技シーンを沸かせたプレーヤーのひとりだと思っています。なかなか対戦する機会がなかったLeshar選手と実際に戦ってみた感想をお聞かせください。

▲精密機械のようなプレースタイルで戦う韓国の強豪Leshar選手。ウィナーズファイナルで対戦した翔選手は、Leshar選手の勢いの飲まれることもなく3:0で勝利した(https://www.youtube.com/watch?v=xopcGMIU4e4&t=23250s

翔:もちろんLesharは強かったし、「ストリートファイターリーグ」で活躍しているので脅威だとは思っていましたが、今日は流れが良かったなと思っています。あとはLesharの調子が良くなかったなという印象はありました。空気の飲まれてた感があって、いつもの動きじゃなかったように感じます。なので、次対戦する機会があった場合はどうなるか分かりませんね。

——今回の「カプコンカップ11」で翔選手が唯一敗北したのが、ときど選手でした。そちらについてはどう感じてますか。

翔:いや、くやしいですねー。結局ときどさんには勝てず——いやぁ勝てなかったですねぇ……。勝ちたかった……。次はさすがに勝ちたいです。

——Xでは「結婚バフ」がトレンド入りしているくらい話題になっていますが、競技シーンにおける家族がもたらすモチベーションの変化は感じましたか?

▲今年の2月14日(金)に結婚を発表した翔選手。新婚ほやほやでの「カプコンカップ11」出場となった

翔:モチベーション自体はそんなに変わっていないとは思いますが、体調管理やご飯を作ってくれたりといったケアやサポートがものすごく助かりました。またメンタルケアというか、癒やしの面でとても助けられましたね。

試合に専念できるというか、競技だけを見られるようになったので、それはものすごく大きいと思います。

——Day1からDay3に開催されたグループ総当たり戦ではJP(翔選手がメインで使用しているキャラクターの名前)の動きかあまり良くないようにも感じていましたが、決勝トーナメントで使用キャラクターを変更する予定はありましたか?

翔:変更する予定はありませんでした。キャラクター変更のことを考えてしまうと、その分迷いが生じてしまいます。試合に負けるたびにそういったノイズが入ってしまうのが嫌だったので、今回の「カプコンカップ11」ではJP一本でと決めていました。

▲翔選手が使用するJP(写真右側)は、離れた位置から攻撃ができるトリッキーだが扱いが難しいキャラクターでもある

——翔選手ご自身も新キャラクターである不知火舞(しらぬいまい)をプレーしていたように、不知火舞を使用する選手も多かったと思います。不知火舞の印象をお聞かせください。

▲2月5日(水)にリリースされた不知火舞。元々はSNKの「餓狼伝説」シリーズのキャラクターが『スト6』に参戦するという話題性と強さを兼ね備えた新キャラクターだ

翔:舞はめっちゃ(本戦でも)出したかったキャラでした。それこそ、妻とも舞を使うのかJPを使うのかでも結構ケンカして——(笑)。まあ、いろいろあったんですけど、やっぱりJPの方がいいよねってことに落ち着いてJP一本にしました。

——月並みな質問ですが、優勝賞金の1億5,000万円は何に使う予定ですか?

翔:いやぁ、正直ないですね(笑)。次の活動資金だったり、長くこの業界にいられるようなことに使っていけたらなと。やっぱり食生活もしっかりしようとすると、それなりにお金もかかりますしね。

——ファンの皆さんに向けてひと言お願いします!

翔:やったぞ〜!!

▲メディアのカメラに向かってガッツポーズでジェスチャーする翔選手。なんともおちゃめな一面も

——翔選手にとって「カプコンカップ」とはどのような大会でしょうか

翔:難しい質問ですね。そうですね……、個人的には一番大きな大会だと思っていて「カプコンカップ優勝」というのがみんなの目標でもあると思っているので、それが達成できて、しかもここで(国技館)で優勝できてうれしいですね。

——ありがとうございました!

———

「カプコンカップ11」はとにもかくにも、「日本のeスポーツ、ついにここまで来たか」という印象を多くのファンに与えた大会だったに違いない。「子ども頃と比べてeスポーツの成長をどのように感じているか」という記者の質問に「僕が子どもの頃はゲームってそんなにいい印象ではなかったけど、梅原さんやときどさんのようなプロ選手が競技シーンを盛り上げてくれたと感じている。今後は僕も盛り上げていけたらと思います」と翔選手。日本におけるeスポーツの在り方に変化を感じているようにも思えた。

多くの日本のファンが見守る中、「ストリートファイター」という日本のタイトルにおいて、日本で、そして両国国技館で優勝を果たした翔選手。本大会のトップ8に勝ち上がった選手は、サウジアラビアで開催される「Esports World Cup 2025」の出場権を獲得した。今度は、サウジで彼の活躍が見られるのが楽しみだ。

なお、決勝トーナメントにおける彼の対戦カードは以下の通り。彼の対戦をぜひ振り返ってほしい。

【ウィナーズ1回戦】IBUSHIGIN|KAKERU vs 2GAME|BLAZ
URL: https://www.youtube.com/watch?v=xopcGMIU4e4&t=3330s

【ウィナーズセミファイナル】TWIS|NOATHEPRODIGY vs IBUSHIGIN|KAKERU
URL: https://www.youtube.com/watch?v=xopcGMIU4e4&t=16551s

【ウィナーズファイナル】IBUSHIGIN|KAKERU vs DRX|LESHAR
URL: https://www.youtube.com/watch?v=xopcGMIU4e4&t=23250s

【グランドファイナル】IBUSHIGIN|KAKERU vs 2GAME|BLAZ
URL: https://www.youtube.com/watch?v=xopcGMIU4e4&t=26881s

©CAPCOM


撮影:いのかわゆう
編集:いのかわゆう


【井ノ川結希(いのかわゆう)プロフィール】
ゲーム好きが高じて19歳でゲーム系の出版社に就職。その後、フリーランスでライター、編集、ディレクターなど多岐にわたり活動している。最近はまっているゲームは『VALORANT』。

X:@sdora_tweet
eSports World の
Discord をフォローしよう
SALE 大会 チーム 他にも...? 他にも

この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます