【現地レポート+インタビュー】椅子に座って観戦するeスポーツはもう古い!?——クラブとの融合でeスポーツ観戦に新しいスタイルを

2023.11.30 岡安学
11月11日(土)にDRAGON GATE(渋谷パルコDGビル)にて、SCARZとパルコ主催による『VALORANT』公式オフシーズンイベント「Hype Up Tour Japan SHIBUYA Finals」が開催されました。

▲DRAGON GATEで行われたHype Up Tour Japanの決勝戦

▲会場は超満員。チケットは即完売とのこと

Hype Up Tour Japanは『VALORANT』の競技シーン「VCT(VALORANT Champions Tour」の公式オフシーズンイベント「OFF//SEASON」のひとつです。VCTは8月に今シーズンのすべてのスケジュールが終了し、オフシーズンの長さが取り沙汰されていましたが、即座に補填するイベントとしてOFF//SEASONが開催されています。先に行われた「Riot Games Home Ground」もOFF//SEASONのイベントでした。

Hype Up Tour Japanはプロチームから選抜された選手が、EAST BLUE TEAM、EAST GREEN TEAM、WEST RED TEAM、WEST PINK TEAMの4つのチームに分かれ、ツアー方式で対戦します。10月2日(月)に名古屋のNAGOYA CLUB QUATTROにてEAST BLUE TEAM対EAST GREEN TEAMによる東日本代表決定戦を、10月3日(火)に大阪のUMEDA CLUB QUATTROにてWEST RED TEAM対WEST PINK TEAMによる西日本代表決定戦が行われました。今回はそのレポートをお届けします。

▲さまざまなチームに所属した選手がひとつのチームとなって戦うのがHype Up Tour Japanの特徴のひとつ。こちらはEAST BLUE TEAM

▲3位決定戦に進出したWEST PINK TEAM

東西に分かれた4つのチームが熾烈な戦いを繰り広げる!


今回の東京大会では、WEST RED TEAM対EAST GREEN TEAMの決勝戦、WEST PINK TEAM対EAST BLUE TEAMの3位決定戦が行われます。ルールは2本先取のBO3。13ラウンド先取のオーバータイムなしで行われます。使用マップは、ブリーズ、ヘイブン、スプリットです。結果は13-9、13-10の連勝でPINK TEAMが勝利を収めました。

▲惜しくも準優勝となったEAST GREEN TEAM

優勝決定戦は基本ルールが3位決定戦と同じですが、使用マップがサンセット、アセント、バインドに変わります。結果は13:8、13:4の2マップ連取。WEST RED TEAMが優勝を飾りました。奇しくもどちらもWESTサイドが勝利するという結果となりました。

▲見事優勝したWEST RED TEAM

エンディングセレモニーでは、各チームへの賞金の授与の他、MVPなどの各賞の受賞式も行われました。大会終了後は、優勝チームのインタビューを行うこともできました。

▲インタビューに答えてくれたWEST RED TEAM。左からReita(れいた)選手、Art(あーと)選手、Medusa(めどぅーさ)選手、neth(ねす)選手、Minty(みんてぃ)選手

——優勝おめでとうございます。率直な感想をお聞かせください。

Art選手:楽しかったです。味方も相手も強いメンバーぞろいで、レベルも高かったですね。いいプレイが出た時のお客さんの反応が間近で感じられて良かったです。

Medusa選手:観客席が近くて、いつもと違う距離でプレイできたのは良かったです。

neth選手:チームメンバーは自分がコールをしなくてもしゃべっていることが多く、迷うことなく戦えました。これが勝てた要因になった感じですね。仲良く、楽しくプレイできて楽しかったです。

Minty選手:意思の疎通ができていて、言わなくてもお互いにやりたいことがわかっていました。ファンとの距離が近かったのも良かった。

Reita選手:自分自身は目立った活躍はできませんでしたけど、メンバーのサポートができたのはよかった。元チームメイトふたりと新しいふたりと組めて、これからも一緒にやっていきたいと思います。

——Hype Up Tour Japanはどんな印象を持たれましたか?

Art選手:選手同士のコミュニティってあまりなくて、ほかのチームの選手と一緒にプレイする機会が少ないんですよね。今回はいろんなチームの人と組めたのでよかったです。あと、オフシーズンでも大会が開いて貰えたのはうれしかったです。

Medusa選手:大阪で大会がやれたのはよかった。

neth選手:オフシーズンの大会だとエキシビションマッチが多いんですけど、Hype Up Tour Japanは選抜大会ながら賞金も出る大会だったので勝ち負けにこだわれる大会でした。チーム編成はミックスチームでしたが、一緒にやれてよかったです。

Minty選手:関西のオフライン大会に参加するのは初めてでしたけど、応援してくれる人がいて、本当にうれしかったです。

Reita選手:大阪のイベントは初参加だったので、とても新鮮でした。こういう機会があったこと自体が大きいと思います。東京で決勝戦もやって、さらに賞金が出るのですごい大会でした。

——今後の活動についてひと言お願いします。

Art選手:観ていて楽しかったと言われることが多いので、競技シーンを盛り上げられるような選手になるために、がんばっていきます。

Medusa選手:撃ち合いをもっと鍛えていきたいです。

neth選手:実力を上げていくことはもちろんですが、チーム作りに貢献できるような人間性を磨いていきたいと思っています。

Minty選手:いい選手だと言われるようになりたいんです。Hype Up Tour Japanのようなイベントがあったとき、また呼んで貰えるようにしたいです。

Reita選手:最年長として存在感を示していきたい。ほかの選手が辞められないようにプレッシャーをかけていきたいですね。

クラブとeスポーツの融合で、よりeスポーツに熱狂を


先述した通りHype Up Tour Japanは、SCARZとパルコによる共催となっています。SCARZとパルコはどちらもJ.フロント リテイリングの子会社であり、お互いの得意分野を生かしたイベントとなりました。SCARZとしてはeスポーツ大会運営や選手のアテンドなどを担当し、パルコは運営するライブハウスの使用や、ライブハウスならではの演出などエンタテインメント性の強化を担当しています。

『VALORANT』の大会としては、誰もが納得する選手の招待が行われ、eスポーツ大会にはなかったステージ演出が行われていました。特に音と照明による演出はまさにクラブ的で、それでいてeスポーツ大会を邪魔しない溶け込んでいたのはさすがのひと言でした。

▲試合の開始前などでDJがパフォーマンスをする時間がありましたが、適度な時間で大会に溶け込んでいました

▲大型ディスプレイにはゲーム画面だけでなく選手の映像も大きく映し出され、現場でプレイしている感が出ていました

▲ラウンド毎に活躍した選手がピックアップされ、レーザーで名前が映し出されます。配信では右側の画面のようにワイプで表示されるだけなので、会場ならではの演出です

観客席と選手が対戦するステージの距離も近く、これもクラブ的です。試合中もずっと席に座って観戦するのではなく、さまざまな場所に移動し立ち見をしながら観客同士が話をしているのもクラブで見かける光景でした。これはクラブに慣れている観客が多かったというのも要因のひとつでしょう。

インターバルではチームの物販ブースでファンミーティングを行ったり、試合の出番ではない選手がバーカウンターで飲み物を提供したりと、これまたファンにはうれしいサービスが満載でした。

▲選手と写真の撮影ができたファンミーティング

▲インターバル中、会場に出てくる選手もおり、写真などに対応していました(写真はGON選手)

▲各チームの物販ブースも展開されていました。こちらはREJECTの物販ブース

FENNELの物販ブース

LGのゲーミング有機ELディスプレイUltraGearが試せるコーナー

▲MrTenzouEz選手が誕生日で、SCARZのYoshiii選手にケーキと花束を渡されるシーンも

▲会場にはコスプレイヤーのわたらいさんとMilaさんも居ました

▲タンクトップ姿で接客をするtakej選手






▲ネームプレートを掲げて応援するファンも多くいました

Hype Up Tour Japanがライブハウスでの開催にこだわった理由とは
——主催者インタビュー


『VALORANT』の観戦勢はクラブに通う層と親和性が高いとみられ、『VALORANT』を使った大会だからこそ、うまく融合したのではないでしょうか。そんな思いが見え隠れしたHype Up Tour Japanですが、SCARZ側とパルコ側から今回の大会の開催の意義や目的なども聞いてみました。

▲インタビューに答えていただいた柏木敏弘氏(写真左)と西澤優一氏(写真右)

——SCARZがJ.フロント リテイリングの子会社になって、同じグループ企業のパルコとeスポーツイベントが初開催できたことについていかがでしょうか。

XENOZ(SCARZ)柏木敏弘副社長(以下柏木):昨年の12月にJ.フロント リテイリングにSCARZが入って、より幅広い人たちにチームをアピールしたいと考えていました。タイミング的にもコロナが終息し、熱狂的に応援するエンタテインメントとして活動を広げていきたいと思っていました。

パルコはエンタテインメント事業部があり、eスポーツ業界を盛り上げることをしたいと常々考えています。今回、『VALORANT』がオフシーズンのイベントをコンペ形式で募集しており、先の思いもあって応募することとなりました。

——Hype Up Tour Japanがチーム対抗戦ではなく選抜戦にした理由はなんでしょうか。

柏木:大会形式についてはいろいろなパターンを想定しました。オフシーズン中ということ、また各チームがロスターの変更をしている過渡期にあり、トップチームを招集しても、ベストメンバーにならない可能性もあったわけです。開催までのスケジュールがかなり厳しく、現状で熱狂的な大会を開催するのはミックスチームで行うことだと考えていました。

結果的ですが、ミックスチームになったことで、普段は見ない特別な組み合わせによる対戦ができ、東と西の対抗戦というコンセプトもファンに伝えることができました。

——eスポーツではあまり使用しないライブハウスを使ってのイベントで、演出もクラブ寄りでしたが、この点についてはいかがでしょうか

パルコ西澤優一業務部長(以下西澤):最初の会場となった名古屋で会場を作って行く上で、ライブハウスの環境を使って演出していこうと考えました。ライブハウス特有の照明演出や音の演出ですね。狙ったことは結構できたと思います。東京会場はさらに大型モニターも使えるので、これまでの集大成としての演出を考えました。

また、eスポーツのファン層の拡大も考えていました。クラブ的な演出を行うことで、eスポーツ観戦勢以外にクラブに通う層にも来てもらいたかったわけです。

柏木:パルコと一緒にやれたのが大きいですね。名古屋と大阪の両方でCLUB QUATTROを使えたことで、都市ツアーとして展開できました。名古屋と大阪ではパブリックビューイングも行い、都市ツアーらしく、それぞれの街で広がりを持たせるような観戦スタイルも打ち出せました。

決勝戦は渋谷を選びました。渋谷はeスポーツ聖地ともいえる場所ですし、パルコの旗艦店のひとつである渋谷PARCOもありますしね。今回はステージと観客席が近く、選手も観客もお互いの熱狂を感じ取れる距離感でいい部分が出たと思います。

——DJの演出は効果音的に使われていて、長すぎない演奏がeスポーツ大会の邪魔をせず、それでいて高い演出効果を出しているように感じました。

西澤:DJによって全体の流れが切れないように心がけました。

——今後のHype Up Tour Japanについてお聞かせください。

西澤:第2弾など、具体的な話はまだ決まっていませんが、次のステップに繋げるようなものは継続してやっていきたいと思っています。Hype Up Tour Japanのブランドが育っていくようにSCARZとパルコで一緒にやっていきたいですね。ゲームタイトルとしては『VALORANT』にこだわっているわけではないので、さまざまなタイトルに挑戦していきたいです。基本的には前向きな気持ちでとらえています。

柏木:今後も発展的にやっていきたいですね。Hype Up Tour JapanはSCARZとは別のブランドとして育てていきたいと思っています。国内だけでなくグローバルにも展開できればと思います。SCARZとしても新しい部門の設立やストリーマー部門の拡充などを考えています。

——ありがとうございます。

▲インタビューからもHype Up Tour Japanの成功の確信が感じられました

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VCTの長すぎるオフシーズンから誕生したOFF//SEASONですが、Hype Up Tour Japanの開催はネガティブな印象を払拭するイベントとして成功を収めたといえます。ライブハウスでのeスポーツイベントの開催や新たな演出方法など、eスポーツの進化に大きな一石を投じたのではないでしょうか。

選手も観客も主催者も声をそろえて言っていましたが、本当にステージと客席の距離が近く、お互いの熱量が感じられたのではないでしょうか。また、大会終了後は全選手、応援団、実況、解説すべての出演者がホワイエに並び、観客を見送っていました。本当に観客と選手が近い大会でした。

▲出演者全員が観客を見送っていました

今後はOFF//SEASONの一環としてだけでなく、年間通じて開催されるHype Up Tour Japanとしての存在感を見せて欲しいところです。

撮影:岡安学
編集:いのかわゆう


【岡安学 プロフィール】
eスポーツを精力的に取材するフリーライター。ゲーム情報誌編集部を経て、フリーランスに。さまざまなゲーム誌に寄稿しながら、攻略本の執筆も行い、関わった書籍数は50冊以上。現在は、Webや雑誌、Mookなどで活動中。近著に『みんなが知りたかった最新eスポーツの教科書』(秀和システム刊)、『INGRESSを一生遊ぶ!』(宝島社刊)

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