【インタビュー】なぜZETAは自分たちでデバイスを作ったのか——「選手の理想」を形にするZETA GEARの挑戦

2026.10.15 まいる
プロeスポーツチームZETA DIVISIONを運営するGANYMEDEは、2026年9月16日(水)、新ゲーミングギアブランド「ZETA GEAR」を発表。住友理工、ZENAIM(東海理化)、ミズノと共同開発した第1弾となる4製品がリリースされ、翌日となる9月17日(木)から9月21日(月・祝)まで幕張メッセで開催される「東京ゲームショウ2026」にて先行販売が実施された。

▲ZETA DIVISIONブースでは「ZETA GEAR」を含めたさまざまなデバイスを体験・試遊することができた。また物販ブースでは、先行販売として同ブランドの製品を購入することができた

そんな東京ゲームショウの2日目、ZETA DIVISIONブースにて、この「ZETA GEAR」の仕掛け人である佐橋明(さはし あきら)氏にお話をうかがった。

佐橋氏は、ZETA DIVISIONの前身であるチーム「JUPITER」が創設されたときの最初のメンバーのひとり。arikaという名義で、2019年までPUBGのプロ選手として活動していたという経歴を持つ。現在は選手時代の経験をもとに、GANYMEDEの一員として、同社のゲーミングギア事業に携わっている。

今回は、実際に製品を手に取り、体験しながら、新ブランド立ち上げの背景や製品開発に込めたこだわり、さらには立ち上げにまつわる裏話まで、じっくりと話を聞くことができた。本記事では、そんな佐橋氏へのインタビューを通じて、「ZETA GEAR」がどのような製品なのか、その魅力やこだわりを余すところなくお届けしよう。

ZETAがゲーミングギアブランドを立ち上げた理由——競技現場のノウハウを製品へ


——今回、新たにデバイスを開発するに至った経緯をお聞かせください。

佐橋:他のスポーツですと、色んなスポーツメーカーさんが、シューズなどをトップ選手専用に開発・提供して、それをもとにしたモデルが一般向けに市場に出てくるという流れがあると思うんです。ただ、こういった一連の流れがeスポーツでも起こっていいはずなのに「なぜかないな……」と、ふと思ったことが、一番のスタートだったかなと思います。

eスポーツの選手って、自分にとって一番パフォーマンスが出るデバイスを常に探し求めているんですよね。だからこそ、同じデバイスをずっと使い続けることがあまりないという人が多いんです。もちろん、日々新たなデバイスが登場していますし、新たな刺激が欲しいという部分もありますが——。ただやっぱり、多くの選手たちは、いまだに自分の理想とするデバイスに出会えていないんじゃないかとも思うんですよね。

だからこそ、我々が実際の競技活動で得たノウハウをもとに、それらを形にしていく必要があるんじゃないかと思ったんです。

——開発の流れはどのようなものでしたか?

佐橋:まずは、僕やメーカーさんのほうで「今のデバイスの課題ってこういうところなんじゃないか」とか「こういう仕様があればもっとパフォーマンスを出せるんじゃないか」とかっていうところを洗い出すところからスタートしました。

そして実際に作った試作品は、もちろん選手もそうですし、特にZENAIM(東海理化)さんと開発したマウスパッド「M2」なんかは、一般のコミュニティの方々にもテストしてもらうなど、色んな意見を聞きながら開発していきました。

やっぱりデバイスって「これが一番いい」という製品は存在はしないんですよね。人それぞれプレースタイルも違いますし、個人の好みが顕著に出てくるところですから。そんな中で今回の製品は、「そういえば、まだ市場にないよね」となるようなものを、選択肢を増やすという意味で開発を進めていきました。

「スッと動いてパッと止まる」——異なるアプローチで開発された2種類のマウスパッド「M1/M2」


▲新たに発表されたマウスパッド2種類。TGSの物販ブースでは、実際にさわりながら購入することができた

——今回発表された4製品について、具体的に既存の製品との大きな違いについてお聞かせください。

佐橋:製品それぞれに特徴があります。例えば、住友理工さんと開発させていただいたマウスパッド「MOUSEPAD M1」は、フォームがゴム製となっています。今人気のマウスパッドでゴム製のものってほとんどないんじゃないかと思うんですよね。

まあ昔は結構採用されていた素材なので、「これまでなかった」と言うと少し語弊があるんですが、少なくとも今主流のものにはないというところはありますね。

——なぜ一般的でない「ゴム」を採用したのでしょうか。

佐橋:マウスパッドを押し込むと、表面が少し沈み込むと思うんですけど、住友理工さんによると「押し込むときに必要な力の強さ」と「沈んだ表面が戻ってくる速さ」って別々の特性のようです。

ある程度の相関関係はあるんですけど、比例しているかというと別にそんなことはなくて。例えば、現在主流のウレタン製のフォームは、押し込んだときの強さと戻るときの速さがかけ離れているんですよね。

そこで今回出した「M1」は、押し込みと反発の具合がほぼ一定になるように作られています。なおかつ高反発——。つまり、戻りがすごく速いという特性になっています。

▲「M1」の表面は一般的なマウスパッドと同様のさわり心地だが、押したときの感触は独特。フォームにゴムを使用しているということもあり、スポンジのような弾力性を感じる

これは特にマウスを押し込んで止めるプレーヤーにとっては、すごくいい特徴だと思っています。例えばエイムを止めたあとに、すぐ微調整をしたい時。高反発であるからこそ、掛かっているブレーキがすぐになくなってくれるので、即座に微調整に入れるってところが感じられると思います。

——普通のマウスパッドだと、少し表面の歪みが影響しちゃうということですね。

佐橋:はい、そうです。その分「M1」ならすぐに表面が戻ってくれるので、いつもと変わらない感覚でエイムが合わせられるようになっています。

——先ほどお話にあった「M2」についてもお聞かせください。

佐橋:ZENAIMさんと開発した「MOUSEPAD M2」については、ウレタン製のフォームとポリエチレン製のサーフェス(表面)を使っていて、ここだけを見てしまえば昨今のトレンドを追っている製品かなとは思います。

市場では珍しいとがった製品を作ると、多くの人にとって違和感のほうが強くなるかもしれないこともあって、この「M2」ではそういった違和感が極力発生しないようにしつつ、「スッと動いてパッと止まる」というところをコンセプトとして形にした製品になります。

ですので、手ざわりや使用感は多くの方が慣れ親しんだものではあるんですが、実際ゲームプレーで使ってみると、滑り出しの良さと止まりの良さのメリハリが感じられる製品になっているかと思います。しっかりマウスが止まるのに、動き出しが軽いっていうところが特徴かなと。

▲「M2」は一般的な布製マウスパッドと似たような感触だ。「M1」よりも滑りやすく、スピードが重視されるゲームにおすすめ。縫い目を滑走面よりも下に持ってきてくることで、腕やマウスとの引っかかりを軽減してくれる端部処理がこだわり

「ストレスを極力排除する」——縫い目をなくし、装着感を追求したアームスリーブとフィンガースリーブ


——新たに開発されたアームスリーブについてもお聞かせください。

佐橋:他のメーカーのアームスリーブでは、布同士の継ぎ目の部分があったりとか、リブ(裾口)が分厚くなっていたりとか、装着していて気になることがあったりすると思うんですよね。また「縫い目がない」ことを謳った製品も多くあると思うんですけど、実際に買ってみるとリブ(裾口)が折り返して縫い目があったりとかもして。

そこで今回ミズノさんと開発したこのアームスリーブ「A1」は、そういった装着時のストレスとなる要素を極力排除していった結果、完成した製品となります。

▲「ARM SLEEVE A1」は、ピチッと肌に密着するような付け心地で、縫い目はまったくと言っていいほど感じない。スポーツ用のインナーをイメージしてもらうと分かりやすいかもしれない

——どのようにして縫い目をなくすことができたのでしょうか。

佐橋:実際見ていただければ分かるんですが、布と布とを繋ぎ合わせるために接着を行っています。また布自体も薄く伸縮性がある素材になるので、この継ぎ目の違和感をほとんど感じないようになっているかと思います。

またリブの部分は、すべて切りっぱなしになっていまして、腕や指の部分に違和感が発生しないようになっています。これは別にコストカットというわけではなくて、端部処理をしなくても解(ほつ)れにくい生地を選定しています。

——つまり、素肌のような感覚ということですか?

佐橋:そうですね、なるべく付けていないような感覚になるようにしています。

——フィンガースリーブについては、いかがでしょうか?

佐橋:こちらもアームスリーブ同様、ミズノさんとの共同開発で生まれた製品となります。こちらはモバイル向けの製品となりますので、まず生地に導電性があってしっかりと画面が反応するということは大前提となります。

そのうえで、装着時のフィット感ですとか、親指を曲げたときに邪魔になる感覚がなるべくないようになるような、伸縮性のある生地を選定しました。リブ自体もあるといえばあるんですが、なるべく柔らかく、かつ小さくなるように作っていただいたので、付けたときの違和感が極力ないようにしたというところが特徴です。

▲「FINGER SLEEVE F1」は、スマホゲーム向けに銀でコーティングされた糸を使用している。手汗の影響をまったく受けず、スムーズに画面操作ができるようになる点はうれしい

選手の理想のデバイスを形にできるように——「ZETA GEAR」が目指すものづくり


——他のeスポーツチームの多くが、他社ブランドとのコラボといった形でのデバイス開発を行っているなか、なぜ今回「自社ブランドの立ち上げ」という、あえてリスクのある形に至ったのでしょうか。

佐橋:これは正直運が良かったという部分はあります。私自身、だいぶ前ですけど選手をやっていたということもあって、昔からデバイスが好きだったんですよね。そんな中でも、いつかはデバイスの開発にも携わってみたいという想いは薄くあったんです。

ただやはり、モノを作るには投資も必要ですし、プロモーションにも大きな費用やリソースが掛かるということで、本当に文字通りの「夢」だと思っていたんですよ。

▲佐橋氏はかつて「PUBG」のプロ選手として活動していたという経歴を持つ。ZETA DIVISIONの前身であるチーム「JUPITER」へ最初に加入した選手のうちのひとりだ

そんな中で、今回ご協力してくださったメーカーさんから、わりと同じようなタイミングで「一緒に製品を作りませんか」といった形でお声がけをいただいたんですよね。我々にとって一番のハードルが、こういったモノの製造・開発に携わったことのある人間がいなかったことです。選手が何を求めているかは分かっていても、それを実現する方法がまったく分からないという。

ただ今回、そういったモノを作るということのノウハウを持つ企業と組むことで、それが実現できるようになりました。我々が「こういうものを作りたいです」という仕様的なものをお伝えすると「それを実現するためにはこうすればいいよね」という案を、皆さん返してくださるんですよね。

我々が「やりたい」と思っていたけれどノウハウがなかった部分を、お互いの強みで補完し合うことで、実際に形にしていける。その道筋が見えたことが、今回の事業化につながった大きなきっかけとなります。

——この「ZETA GEAR」は、自社サイトのみでの販売となるのでしょうか。

佐橋:今回発売した4製品は、いまのところ「先行販売」という位置づけになります。遠くない将来に、自社ECの方での販売も始めたいと思っていますが、現時点ではこの「東京ゲームショウ」でのみ入手できるという形になります。

——家電量販店や専門店など、ゲーミングデバイスを販売されている店舗も多くあると思いますが、そういった場所で販売を行うという考えはありますか?

佐橋:あります。ありますが、現時点では具体的な話には至っていないです。正直、今のところはリリースするのに精一杯で、そこまでまだ手が回っていないので、今後はそういった販売活動といったところにも力を入れていきたいとは思っていますね。

実際、今日も物販ブースの方に販売店さんが来てくださったりして、本当にありがたい限りです。実際にはビジネスの条件面なんかのすり合わせがあると思うんですが、できるだけ実現できるように頑張っていきたいと思っています。

——今回このような自社ブランドのゲーミングデバイスの開発を通じて、チームとしての活動にどのような相乗効果があると思われますか?

佐橋:先ほどお話したように、今回リリースさせていただいた製品は、誰かひとりだけのために作った製品ではないんですね。ただ、ここでノウハウを積んで、例えば「なんかこのデバイスしっくり来てないんだよね」っていう選手がいたら、我々から「こういうものがいいんじゃないか」という提案ができるようになりたいですね。

選手個人にとってベストなものが市場にないのであれば、我々がそれを作って提供できるような形になるっていうのが、理想かなと思っています。また、他のスポーツのように、選手個人向けに作られた製品を一般向けに販売して、そこで収益を得るという形も、選手・チーム双方にとってメリットがあると思うので、そういった仕組みも作れないかなと思っております。

——実現可能性はいったん置いておいて、佐橋さん個人として、なにか作りたいと思っている製品はありますか?

佐橋:具体的にこれといったものではないんですが、いわゆるエレメカ(エレクトロニクスとメカトロニクスを組み合わせた製品)ができるようになりたいと思っていますね。今回リリースした製品は、どれも機械的・電気的な機構はないんですが、例えばマウスやキーボードのような製品も将来的には作れるようになりたいですね。

僕自身が結構ガジェット好きなところもありますし、選手の中にも「理想のマウスやキーボードに出会えていない」という人もいると思います。そういった選手たちのニーズに応えられるような製品も作れるようになると面白いとは思っています。ただ、まあ、実現性はまだないかなと思います。

——ただ想いとしては作ってみたいと?

佐橋:僕はモノづくりが好きなので、なんでも作ってみたいですね(笑)。

ただ、完全に競技用の製品ばかりを作ってみたいというわけではなくて、製品を使ってくれる人のライフスタイルをもっと豊かに広げていきたいという想いがあります。それは、事業としての大きなテーマでもあります。

例えば、ゲームに直接は使わないけど、ゲーマーだったらデスクに置いておきたいと思ってもらえるようなガジェットも、僕はあっていいと思うんですよ。

「ゲーミング用デバイス」をずっと作り続けるというよりは、ゲーマーにとって気分が上がるものだったり、生活が豊かになるようなものだったりする製品を、今後のラインアップとして増やしていけると、すごくいいんじゃないかなと思います。

——もしかしたら、変わり種のガジェットが来るかもしれないということですね。

佐橋:個人的にはやりたいんですけどね。事業が安定してきたら許されるかもしれないですね(笑)。


——ありがとうございました!

———

「ZETA GEAR」は、単にZETAの名前を冠したゲーミングデバイスというだけではない。競技シーンで選手たちが日々デバイスと向き合う中で得た知見と、各メーカーが持つものづくりの技術を掛け合わせることで、既存製品とは異なる新たな選択肢を生み出そうとしている。

だからこそ、世界の競技シーンの最前線に立つZETAが、選手たちの声や現場で培った知見を製品開発に直接落とし込もうとする今回の試みには、大きな可能性を感じる。4製品はまだ始まりに過ぎない。選手の「こんなものが欲しい」を形にし、やがてゲーマーの生活そのものを豊かにする――そんな「ZETA GEAR」がこれからどのようなプロダクトを生み出していくのか、今後の展開にも期待したい。


■関連リンク
【住友理工・ZENAIM・ミズノと共同開発】ZETA DIVISIONが新ブランド「ZETA GEAR」を始動——マウスパッドなど4製品をTGS先行販売:
https://esports-world.jp/gaming-device/65943

【TGS2026 現地レポート】ZETAのオリジナルゲーミングブランド「ZETA GEAR」がお披露目——初公開の新作ギアを先行体験&先行購入できるチャンス!【ZETA DIVISION:ホール03-C04】:
https://esports-world.jp/report/66110


撮影:まいる/いのかわゆう
編集:いのかわゆう


【まいるプロフィール】
関西を拠点にする男性コスプレーヤー。イベントや大会によくコスプレ姿で出没する。2021年頃から『VALORANT』にハマり、競技シーンを追い続ける。現在の推しチームは「CREST GAMING」。

X:@mlunias(Photo by Subaru.F.)
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