eスポーツ国別対抗戦「Esports Nations Cup」が1年延期——日本代表マネージャー・平岩康佑氏「言葉を失っています」

2026.8.19 eSports World編集部
Esports Foundation(EF)は8月18日(火)、「Esports Nations Cup(ENC 2026)」の初開催を2027年11月へ1年延期すると発表した。開催地はサウジアラビア・リヤドのまま変更されない。


「Esports Nations Cup(ENC 2026)」は、従来のクラブチーム単位ではなく、「国・地域」を代表する選手たちが集結して戦う世界最大級のeスポーツ国別対抗戦。全16タイトルが発表されている。会場はサウジアラビア・リヤド。

対象タイトルは『Apex Legends』、『Counter-Strike 2』、『Dota 2』、『EA SPORTS FC』、『餓狼伝説 City of the Wolves』、『Honor of Kings』、『League of Legends』、『Mobile Legends: Bang Bang』、『PUBG: BATTLEGROUNDS』、『PUBG MOBILE』、『レインボーシックス シージ』、『ロケットリーグ』、『ストリートファイター6』、『Trackmania』、『VALORANT』のビデオゲームタイトルに加え「チェス」を加えた16競技。

当初は2026年11月2日(月)〜29日(日)が開催の日程。総額4,500万ドルのコミットメントのうち、2,000万ドルが賞金として選手とコーチに直接支払われ、優勝5万ドル・準優勝3万ドル・3位1万5,000ドルという、タイトルで均一の配分が設計されていた。

発表の中身


EFはリリースで、延期は「広域の地域情勢の継続的な評価と、主要ステークホルダーとの協議」を経た判断だと説明。100を超える国と地域が関わる前例のない規模を踏まえ、ナショナルチーム・パブリッシャー・パートナー・ファンに求められる確実性と安定性を担保する「責任ある決定」だとした。

同時に「サウジアラビアは引き続きイベント開催能力を十分に備えており、主要なスポーツ・エンターテインメント興行は予定どおり進行している」とも明記している。

ナショナルチームパートナー(NTP)へのENC Development Fundの拠出はすべて維持され、エコシステム開発プログラムも継続する。Ralf Reichert CEOは「延期の決定は軽々に下したものではない」「相応しい条件のもとで、この構想にふさわしい水準の第1回を届ける責任がある」とコメントした。

「地域情勢」が指すもの


EFのリリースは、具体的な国名も紛争にも一切ふれていない。ただし前段の事実は積み上がっている。EFは2026年5月20日、Esports World Cup(EWC)2026の開催地をリヤドからパリへ変更すると発表。中東情勢の悪化にともなう空路の混乱が理由で、2024年の初開催以来はじめてサウジ国外での開催となった。同年4月にはF1サウジアラビアGPも同様の理由で中止されている。

つまりENCの延期は、EF自身が3カ月前にEWCで下した判断の延長線上にある。ここで整理しておきたいのは、EWCは「移した」がENCは「延ばした」という非対称性だ。クラブ対抗戦であるEWCは開催地を移しても競技の意味を失わないが、ENCはリヤドで構想・発表された国別対抗戦であり、開催地を移せば企画の趣旨そのものが損なわれる。会場を守るために1年を差し出した、という構図になる。

なお「中東情勢が背景」という点はEFの公式説明ではなく、周辺事実と各メディアの分析にもとづく解釈である。

懸念は予選結果と、選手の“1年”


問題は「延期のタイミングが遅い」ということ。『Counter-Strike 2』は7月に24の国と地域が、『Apex Legends』は8月に39チームが本戦出場を確定させていた。7月30日(木)には「アディダス」との全チームジャージ提供パートナーシップを発表し、8月2日(日)にはシャンゼリゼ通りで、フランス代表の第1号ジャージがお披露目されている。その16日後の発表だった。

日本も同様だ。『VALORANT』日本代表はアジア予選を1位で通過して本戦出場を決めており、『Apex Legends』日本代表もAPAC North予選を勝ち抜いて代表ロスターが確定していた。

焦点は、この結果が2027年に持ち越されるのかどうか——。EFは「今後数週間かけて、変更後の競技カレンダー、予選ルート、新スケジュールにともなうその他の影響について明確にしていく」としているだけで、確定済みの出場権の扱いにはふれていない。Counter-Strike専門メディアの「HLTV」は、この文言を予選が再実施される可能性を示唆するものと読んでいる。

参考記事:
https://www.hltv.org/news/45331/esports-nations-cup-postponed-to-2027

ここに移籍の問題が絡む。ENCには同一クラブ所属選手の人数上限がある。5v5タイトルでは同一組織から最大3名(控えは同一組織から最大2名)、4v4では最大2名、3v3では最大2名まで。加えて、代表する国のパスポートをロスターロック時点で1年以上継続保有していることが条件で、二重国籍者はENCシーズンを通じてひとつの国しか代表できない。

1年空けば、選手の所属先は動く。確定済みロスターがそのまま2027年に持ち越された場合、移籍によって同一組織上限に抵触する組み合わせが出てくる。逆に組み直しを認めれば、予選を勝ち取ったメンバー構成の正統性が揺らぐ。どちらに転んでも面倒な話であり、EFが「予選ルートを含めて明確にする」と書かざるを得なかった理由もここにあるだろう。

所属の変動を懸念する声は、国内からも上がっている。REJECTのオーナー・甲山翔也氏は個人のXで「唐突なENC1年延期」と切り出し、EWCが急遽パリ開催となった経緯にもふれながら「英断だと思います」と一定の理解を示しつつ、「延期するとチームの移籍等の可能性もあると思いますし 大変大きな変更ですので、詳細を待ちます」とつづった。選手を送り出すクラブ側から、まさにロスター構成の変動リスクが指摘された形である。


公式サイトから消えたもの、残っているもの


海外のコミュニティでは、公式サイトから出場権を得た選手の名前が削除されたとする指摘も出ている。確認したところ、実際に起きているのは次のような状態だった(8月19日時点)。

公式サイトの「Countries/Territories」ページは、見出しが「Esports Nations Cup 2027」に書き換えられている。各国・地域のカードに表示される「TITLES AT ENC」「direct invites」「PLAYERS REGISTERED」の数値は、掲載されているすべての国・地域で0となっている。これには、『VALORANT』の予選を突破して本戦出場を決めていたアルゼンチンなども含まれる。なお検索エンジンに残る同ページのキャッシュでは、直前まで「Esports Nations Cup 2026を対象としたページ」と記述されていた。

一方で、削除はされていない。6月18日付のニュース記事「Esports Nations Cup 2026 - VALORANT Rosters Announced」は現在も公開されたままで、日本代表のコーチVorz、Meiy、SugarZ3ro、Caedye、Aace、Dep、yatsuka、Yuranという顔ぶれを含む各国のロスター表がそのまま残っている。

つまり、選手名そのものが一斉に消されたわけではなく、大会の国別ページが2027年仕様にリセットされた、というのが正確な状況だ。もっとも、勝ち取った出場枠がカウンターの上で0に戻されている事実は、選手やファンにとって当然に不安を招くものである。この扱いが暫定的なものなのか、出場権の再取得を前提としたものなのかについて、EFからの説明はまだない。

日本代表マネージャー・平岩康佑氏「言葉を失っています」


日本の公式ナショナルチームパートナーは日本eスポーツ協会(JESU)で、日本代表チームマネージャー(NTM)にはフリーアナウンサーの平岩康佑氏が2026年3月に就任していた。

その平岩氏が、個人のXにて今回の延期についてこう発信している。

予選を戦い抜いた選手、そしてプロリーグなど多くの予定を抱えながら日本代表への招待を受け入れた選手に対し、「皆さんの覚悟と時間をお預かりしながら、大舞台までお連れすることができませんでした」と記し、NTMとして悔しさと申し訳なさを表明。3月からサウジアラビア側との会議を重ね、JESUおよび各プロチームと連携して準備を進めてきたとし、代表ユニフォームを発表し代表団が出そろうタイミングでの知らせに「正直、私自身も言葉を失っています」とつづった。

そのうえで、すでに出場権を得た選手の扱いを含む詳細は現時点で決まっておらず、9月中に世界中のナショナルチームマネージャーを対象とした説明会が予定されていることを明かしている。あらためて報告するとし、「日本代表として最高のチームを送り出せるよう、引き続き力を尽くしてまいります」と結んだ。


EFのリリースが「今後数週間」としか書かなかった部分に、具体的な時期が入った格好だ。9月のNTM説明会が、出場権の扱いを含む実務上の最初の分岐点になる。

隔年サイクルはどうなるのか


ENCは隔年開催をうたっている。EFの公式説明では、2026年11月のリヤド初開催を起点に、以降は開催都市をローテーションしながら2年に一度実施する設計だった。第2回にあたる2028年の開催地についても「数か月以内に詳細を発表」とされていた段階で止まっている。

つまり、第2回の開催年・開催都市はもともと公式には未発表であり、今回の延期を受けてサイクル全体が2027→2029とずれるのか、2028に戻して結果的に2年連続開催となるのかは、現時点でEFから何も示されていない。

さらにややこしいのは、EWCが2027年にリヤドへ戻る計画である点だ。EWC 2027は7月16日〜8月1日の日程がすでに公表されている。これが予定通りなら、2027年のリヤドは夏にEWC、秋にENCという過密なカレンダーになってしまうという懸念もある。

まとめ


EFのリリースには、2,000万ドルの賞金総額にも、クラブへのリリース報奨金にも言及がない。4,500万ドルのコミットメント全体が2027年へ持ち越されるのか、リセットされるのかも書かれていない。

だが、金額の行方より先に答えが必要なのは選手の扱いだ。予選を勝ち抜いたプレーヤーにとって出場権は、リーグ戦や個人の予定を調整し、やっとの思いでつかんだ結果である。それが公式サイト上で0に戻り、再取得が必要なのかどうかも分からないまま数週間を過ごすのは、不安材料でしかない。

延期そのものは、安全と実行可能性を優先した判断として理解できる。問題は、その判断が選手に何を強いるのかをEFがまだ言語化していないことにある。9月のNTM説明会、そしてその後に示される競技カレンダーと予選ルート。ここで既存の出場権にどう向き合うかが、「国を背負って戦う大会」を掲げたENCの本気度を測る最初の物差しになる。


■関連リンク
Esports Nations Cup公式:
https://esportsnationscup.com/en
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